9-51 先に仕掛けたのは
大人って愚かだよなぁ。戦に駆り出される弱い人、奴婢にされ売り飛ばされる子の気持ちなんて、少しも考えない。
ハァ、イライラする。
このまま狭めて、バリバリ壊れた舟に貫かれて死ねば良いのに。あ、でも中には断れず加わった人、引き摺るように乗せられた人も居るか。
気の毒に。助からないし戻れないよ、きっと。耶万の社の司には、恐ろしく強い闇の力が有るんだ。オレたちとは違うよ、祝の力さ。
何でだろう。戦ってさ、弱い人ダケが死ぬじゃん。オカシイよね。王とか長とか力を持ってる、戦が好きな偉い人ダケで殺し合えば良いのに。
弱い人とか断れない人とか、いろんな人を巻き込むな!
海が近いと釣りも狩りも出来て『羨ましいな』って思ってた。けど、こういうのが攻めてくるのか。
大石は山奥にあるから、耶万だけ気を付けてりゃ良かったんだ。負けて滅ぼされたけど。
新しい耶万の社の司、良い人で良かったよ。滅ぼされた国とか村とか、耶万に組み込んで残してくれた。
大石みたいに祝が死んじまったトコ、多いんだよな。生まれたらオレ、ムゥとシッカリ守るぜ。
「なぜ使いも出さず、耶万を攻める。」
ミカの声が闇に響く。
「ハッ、使いだ? 攻められれば攻め返す。それダケのコト。」
生き残っていた臣が、声を張り上げた。
「先に仕掛けたのは鎮の西国、儺国だ。それに中の西国、真中の七国が加わった。」
「出任せを言うな、化け物。」
「確かにオレたちゃ化け物だ。けどな、出任せじゃねぇよ。テメぇらが仕掛けたから多く殺され、兵を集めるために滅ぼされたんだ。」
「なっ、何を言っている。」
嘘じゃ無い。その所為でオレたち、奴婢になったんだ。
大人の男は戦場に、女は穢され孕まさせた。子は親と引き離され、売られた。思い出したく無いアレコレ。全て、全てコイツらの所為だ。
鎮の西国とか中の西国とか、真中の七国とか全て敵だ。やまとを一つに? その前に西国とか七国を纏めろよ。何が大いなる王だ。
中の東国にも戦は有る。今もドコかで殺し合ってるだろうよ。けどな、近くの村とか国とかに仕掛けるダケで、舟に乗って遠くまで攻めた事は無い。
父さんが言ってた。
オレだって耶万は嫌いだ。けど、西国や七国のヤツらよりはマシ。あぁっ、ムカムカしてきた。ミカさん、サッサと潰しちまおう。和邇が待ってる。
「話し合いは終わりだ。」
「オイッ、待てオイ。何とか言え。・・・・・・オイ、オイ。居るんだろう。・・・・・・オイ。」
「クベ。」
「潰さないよ、解ってる。」
プチッとしたいけど、耐えるよオレ。
西から来たのを闇に閉じ込めたまま、近海の浦で一休み。殺社の社の司、ハマは大の男嫌い。子でも近づけない。
ミカもクベも、アコも男。話し合いに時が掛かっているのだ。
「ハマさま?」
「はイ、なンでしょウか。」
「兵を閉じ込めている妖怪の国守、ミカとクベに伝えてください。『闇に包んだまま、光江に運ぶように』と。」