9-49 行かないで
ミカさんは強い、とっても強い。でもね、嫌なの。ミカさんが居なくなったらイイ、一人ぼっち。
祝も社の司も、長も婆さまも優しくしてくれる。でもね、みんな人だもん。イイより先に死んじゃうもん。
会岐にはフタさんとミイ、千砂にはモトさんとヨヨ、大石にはクベさんとムゥが居る。
そうだ、ミカさんとクベさんが居なくなったら、ムゥも一人ぼっち。
やだ、そんなの。
耶万の社の司って、強い闇の力を持ってるんでしょう? きっと耶万から光江まで、一っ飛びだよ。だからね、行かないで。
「イイ。釣り、好きだろう?」
「うん、好き。」
「シシ狩りも好きだよな。」
「うん、好き。」
「あのモヤモヤを片づけなきゃ、ドッチも出来なくなるぞ。」
???
「食べる物が無ければ弱って、病に罹る。病に罹らなくても、飢えて死んじまう。あのモヤモヤを放って置けば、田も畑も使えなくなる。何も育たない。」
「そんな!」
「人だけじゃナイぞ。魚も獣も生きられない。」
・・・・・・。
「好いた誰かと契って幸せに暮らす。どこにでも有る幸せだけど、有り難い事なんだよ。」
「・・・・・・うん。」
「オレは加津を守るために、人の幸せを守るために妖怪になった。」
「うん。」
「イイの幸せだって守る。」
キョトン。
「イイはハツとイノの子で、ミミとオレの子だ。生き残りはオレだけなのに、死んだら誰が育てるんだい?」
「お願い、行かないでぇぇ。」
泣きながらガバッと抱きついたイイの背を、優しくポンポンしながらミカは話を続ける。
「モヤモヤを片づけたら、また釣りに行こうな。」
「グスッ。うん、きっとね。」
「あぁ、きっとだ。」
「清めの水、忘れないで。」
「たんと持って行くよ。」
ミカはイイを社の司に託し、クベと共に殺社へ。加津社を通ったので、アッと言う間に近海に着いた。直ぐに港へ飛び、西から来た舟を探す。
遠くに船影が見えた。
「どうします?」
「クベには見えるか、モヤモヤ。」
「悪いのが有るのは判りますが、どの舟に有るのか、誰に乗り移った? とかは全く。」
「そうか。」
ミカさんには見えるんだ。イイにも見えたのに、オレには見えない。・・・・・・ナンデ?
「真ん中の舟に飛び込んだのに、他のに乗ってる。まぁ、ボンボン放り込んだからな。兵が多いのに移ったんだろう。」
そうなんだ。
「兵じゃなく、その影に入った。と思う。ココからじゃ良くワカラン。」
戦する気で攻めて来たんだ。
光江が戦場になるのは良いけど、長引くのは良くない。西国や七国に戻れば、そうか。そうだ、そうしよう。
「アレ、丸ごと闇で包んで切り離しましょう。ミカさんの闇ならオレの闇に出入り出来るし。モヤモヤを殺神に、残りを耶万に任せる。どうですか?」
「ヨシ、そうしよう。」