9-48 必ず戻る
ワクワク和邇さんズに囲まれた事で、西国から来た兵の生き残りが深い闇を抱えた。
ソレをグングン吸い込み、力を得た叢闇の品。兵たちの影に飛び込み、戦を待つ。
戦が始まれば必ず、闇が渦巻く。己が選んだ事を悔い、死を希うようになる。溢れる闇を取り込み、力を付ければ引き寄せるだろう。
闇に飢えている叢闇の品は、そう考えたのだ。
「ん、この感じ。」
「どうしたんですか、ミカさん。」
「クベ、マズイ事になった。加津社で会おう。」
闇の力で舟から港まで、タンと一っ飛び。残されたクベは櫂を持ち、舟を進める。少し離れているが、山育ちのクベにも漕げる。
「ツサ! 殺社に急ぎ、御伝えするんだ。」
闇を纏ったまま、加津社に飛び込んだミカ。
「何があった。」
加津の社の司が、ミカの目を見て静かに問う。
妖怪になったミカが国守として留まったのは、加津を守るため。いつだって子の幸せを願い、妖怪だと思わせないように振舞っている。
そのミカが走らず、海から飛んできたのだ。トンデモナイ何かが起きたに違い無い。
「細い糸を引く光が、兵を乗せた舟に飛び込んだと。」
「はい。間違いありません。」
西から禍禍しい何かが、凄い勢いで飛んできた。アレがソレなら、松田に巣くうゴロツキに憑りついた何かが。
いや待てよ。闇喰らいの品は全て、消えて無くなったハズ。残るは海を越えてきたという、叢闇の品?
「アレはイケナイ。闇を集めながら飛んでいた、ように見えました。」
・・・・・・マズイな、当たりか。
「急ぎ、御伝えしよう。」
「ツサ、耶万社にも御伝えしなきゃ。」
そう言って祝、サハが微笑む。
加津社から、殺社と耶万社へ。耶万社から大貝社、大貝社から和山社へ急ぎ、伝えられた。
「殺神。近海に、妖怪の国守は居ません。」
「海布。アレを清めるか、止められるか。」
「私の力では、どちらも難しいでしょう。」
『使わしめ蛇の会』で聞いた。闇喰らいの品と叢闇の品は、同じ闇でも大違いだと。ウッカリ手を出せば闇堕ちする、とてもアブナイ品なのだ。
この辺りで、妖怪の国守が居る地。会岐、大石、加津、千砂。会岐と千砂の国守は人の時、祝人だった。ほんの少しだが、思い切りが悪い。
大石と加津の国守は迷わないし、守りながら戦える。
「加津と大石に頼んで、妖怪の国守に来てもらいましょう。」
「嫌! イイも行く。あのモヤモヤは危ないの。」
「そうだよ、危ないんだ。だから残って、加津を守っておくれ。」
唇をギュッと結び、目に涙を滲ませるイイ。ミカが優しく微笑み、頬を撫でる。
行かなくて良いなら行きたくない。けれど、行かなければ守れない。
「モヤモヤを引き離してアレコレ片付けば、直ぐ帰ってくるさ。それまでイイ、頼めるかい?」
・・・・・・。
「必ず戻る。イイを残して死んだら、ミミに追い返されるよ。『まだ早い』ってネ。」