9-47 死ぬなら陸が良い
残された兵たち、ガクガクぶるぶる。鎮の西国や、中の西国から来た兵の生き残り。ジョワァと仲良く、漏らしました。
真中の七国から来た兵たち、真っ青。
「加津から離れろ。港へ入れる気は無いし、沈める気も無い。死にたくなければ、判るな?」
ひたすらコクコク。高速『赤べこ』状態。もう分かったから、足と手を動かそうよ。
「サッサと行け。櫂を持て、漕げ!」
クワッ。
思った通り光江へ向かった。暫くすると、大磯川を上った船団が現れる。幾人か体に穴を開け、撤退したのだ。止めときゃイイのに加津を目指す。
千砂の国守モトも会岐の国守フタも、守りより攻めに強い闇を宿している。真っ直ぐ向かってくる敵など、カサカサ動く虫と同じ。
飛ばないから、蟻の行列と同じカナ?
生き残りは思った。サッサと加津に入港して、手当を受けようと。ポッカリ穴が開いたのだから、助かるワケが無い。それでも死ぬなら陸が良い。そう考えたのだ。
「ナッ。」
ココにもバケモノが!
「加津から離れろ。」
ミカの声が刺さる。
船団を囲むのは、ワクワク和邇さんズ。はい、待ってマス。お代わり。
先に向かったハズの船団は、一隻も見当たらない。というより何だ、あの黒いのは。何かを隠すように広がっている。
ハッ、あの向こうから飛んでくるのか。当たれば穴が開く、恐ろしい玉。蛇のように向かってくる、ギザギザの帯。・・・・・・勝てない。
「引けるかぁぁ、グッ。」
叫んだ命知らず、鳩尾を貫かれプラァン。和邇さんズ、わくわく。
ドボン。かぁらぁのぉ、キャッホォイ♪
「引く引く、引きます。ごめんなさいぃぃ。」
動ける兵たちワッセ、ワッセ。櫂を手に漕ぐ漕ぐ。
叢闇の品を納める神倉は、もう出来上がっている。
イロイロあって延びたが、西国や真中の七国から押し寄せた兵が離れている間に、一山にある妖怪の墓場から人の世に出す。
吹出山は蛇谷と雫湖の間にある。殺社から使いが来るまで、人の世に出せない。
まだか、まだなのか。耶万のアコが光江で兵と向かい合う前に、神庫に納めなければ。
「急ぎ申し上げます。鎮の西国らの兵が、近海を通り過ぎました。」
殺社からの使い蛇、蜷局を巻かずに叫ぶ。
「今だ、運び出せ。」
「ハッ。」
『人に見られたら』なんて考えない。祝の力を持たない者には見えないのだから、気にする事は無い。
大貝神の使わしめ、土の糸でグルグル巻きにしてある。トンデモナイ何かが起きない限り、黄泉平坂へ突っ込める。
ブチッ、ブチブチブチィィ。ピッカァン!
・・・・・・トンデモナイ事、起きました。清らな力を宿す土の糸が、アッと言う間にブッチブチ。
人の世に漂う闇を吸い込み、力を得たのです。