9-46 和邇、まっしぐら
大きい。前に見た舟より、ずっと。
畏れ多い事だが『物は困る』と仰った、甲さまの御気持ちが良く解る。あんなのが海に沈めば、片づけるのにドレほど掛かるか。
「み、ミカさん。」
「落ち着けクベ。海に落ちても、オレが引き上げる。」
「はい。お願いします。」
クベじゃ無くても気後れする。
でもまぁアレだけ大きけりゃ、海に出るしかナイな。松田の近くを流れる川を上れば、椎の川に出る。出るが、あの舟じゃなきゃ入れない。
北へは・・・・・・いや待て。初めから椎の川に入れば北の地へ。確か、暴れ川に出るハズだ。
「なぁクベ。いろいろマズイ事になるぞ。」
「エッ、と。」
パチクリ。
「確か社を通せば、大貝社と話が出来る。そうだったよな。」
「はい。」
アッ、そうか。大磯川から入ったら、直ぐに千砂が気付く。見落としても必ず、風見が気付く。戦慣れしてるから通す事は無い。けど、椎の川から入ったら?
蛇谷は滅んだ。実山は大国で強いけど、大の戦嫌い。仕掛けられない限り、手を出さないハズ。
川上にある谷西は小さいし、アレと戦えるほど強くない。他の村や国だって、似たようなモノ。
ってコトは、わぁぁ。お知らせしなきゃマズイ事になるよね。流山が片づけそうだけど、飯田とか強いのに潰されそうだけど、言わなきゃ怒られるよね。きっと。
ミカが闇を展開して、船団の行く手を阻む。と同時に潮の流れが止まった。海神の御力である。
西から来た兵たち、キョトン。他は流れているのに、器に入れられた水のよう。泳いで確かめようとして止めた。和邇の群れにグルッと囲まれている。
飛び込めばパクッと美味しく、食われてしまうだろう。
「退け、化け物。」
確かに人ではアリマセン。妖怪ですので、合ってます。
「引け。加津から離れろ。」
ミカが声を張り上げた。
「ハッ、たった一隻で何が出来るぅ?」
男から伸びる黒いのに衣を引っ掛けられ、兵が五人ぶら下がった。そのままスッと、和邇の上へ。
心做しかワクワク、いや待ち望んでいる。
ココまで来たのに引けるか! 何としても港に入り、若い男を攫う。ん、良く見れば若いな。アレをコチラに付ければ、耶万との戦いに益を齎すのでは。
「加津を戦場にしたく無ければ、大人しく従え。」
「フゥゥゥ。」
息を吐いたミカの目が、ギラリと光った。
犠牲になったのは兵頭。鳩尾の左右を貫き、プラァンと真横に移動。軽く揺する度、ポタポタ垂れる血に和邇たち大興奮。
ワクワク、ビチビチ。まぁだかなっ。
「ま・・・・・・て。」
目を白黒させながら、必死に口を動かす。
ドボン。かぁらぁのぉ、キャッホォイ♪
肉だ肉ニク、人の肉ぅ。血抜きしてナイ新鮮だ。イェイ! お肉ニク肉、お肉ニクぅ。残さず美味しく、いただきマス。ハイ!