9-45 何だ、ありゃ
急ぎ港へ戻ったミカは、イイを降ろして言った。『加津社に行き、社の司と祝に伝えるんだよ』と。コクンと頷き、魚籠を置いて走る。
ミカは長の元へ走り、皆を呼び戻すよう伝えた。
「皆、落ち着くんだ。」
「だけど長、また戦になれば。」
「加津が戦場になる事は無い。いや、そうナラナイよう、ミカが力を揮う。」
質を取られれば誰だって、思うように動けない。
ミカは妖怪の国守。千砂、会岐、大石とも結んでいる。戦に備えて千砂には会岐の、加津には大石の国守が駆け付けた。
人に出来る事は、足手纏いにナラナイ事。
「ミカさんもクベさんも、とっても強いです。私も加津を守ります。」
イイが胸を張る。
「それは心強い。」
浦頭に言われ、ニッコリ。
イイはハツの忘れ形見。人と妖怪の合いの子で、ミカに引き取られた。
父が誰なのか分からない。けれど、ミカはイイに言い聞かせている。戦に取られて死んだイノと、加津に残ったハツとの間に生まれた子だと。
養い親が言うのだ。違っていても口を挟まない、挟めない。
それに合いの子だが、イイは加津で生まれた子。首飾りだって身に着けている。
優しくて良い子に育っているし、婆さまも長も何も言わない。だから皆、加津の子として受け入れた。
「ではミカさま、クベさま。よろしくお願いします。」
耶万の継ぐ子アサが、スッと影に潜る。
「舟を傷つけず、どうやって追っ払いますか。」
「そうだなぁ。とりあえず幾人か持ち上げ、海に落とすか。」
クベに問われ、ミカが答えた。
「そうですね。」
幾つか大磯川を上ったが、モトとフタが追い払うだろう。サッサと片づけ、松田を調べると言っていた。
「ミカさん。真中の七国で、大きな戦が始まるって。」
「そうらしいな。耶万を取り込んで、兵を取る気なんだろうよ。」
「耶万の社の司が、闇の力を見せつけたのに?」
「戦好きはな、戦しなきゃ生きられないんだ。オレには全く解らんがな。」
「オレにも解りません。」
ヤツらが潜む松田。ソコソコ離れているが、イヤな感じがする。
使わしめを放たれ、御隠れになった地もあるが、初めから御坐さぬ地は多い。そんな地で生まれた合いの子は、生まれて直ぐ生殺しにされ、滅んだ国に捨てられた。
山なら井上、海なら松田。どちらも人攫いや人売りが潜む地だ。人の味を覚えた合いの子が満たされず、歩き回っているらしい。
井上の辺りに有ったのは、ドコも耶万に滅ぼされた。実山も谷西も守り抜いたし、谷や広い川を越えなければ行けない。
松田はマズイ。
それなりに大きな国だったし、川を下れば海に出られる。布を手に入れれば帆を張って、岸多や加津にも。
陸なら逃がさないが、海に飛び込まれれば難しいんだ。
「来たぞ。」
加津の港から少し離れた海の上。こちらに向かう舟は、思ったよりも大きい。何だ、ありゃ。