9-44 言霊
叢闇鏡は蛇谷、叢闇珠は雫湖。目を向けさせるために建てる社は、吹出山の頂。
人の世と隠の世の境に建てる神庫はコチラで。吹出山に建てるのは、妖怪の国守に頼もう。
大貝山から出せぬなら一山から出せば良い。もし叢闇剣を求めて暴れても、直ぐに叩き込める。
耶万に近いのが気になるが、他に思い当たる地が無い。
「加津や千砂に兵が押し寄せたとしても、国守が片づけるか追い払う。近海や大浦ではナク、光江へ向かうハズ。」
蜉蝣神、ニッコリ。
「戦が始まる前に清め、巻くのですね。」
「大貝神の使わしめ、土の糸で。」
「グルグル、グルグルと。」
狗神、烏神、鼠神、ニッコニコ。
・・・・・・エッ。
「土? 聞こえるか、土。」
「は、ハイ。」
糸で巻くのは良いけれど、人の世に出せば。考えるのも言うのもイケナイ、その通りになってしまう。
叢闇鏡と叢闇珠は、叢闇剣とは大違い。人の血を浴びる事は有っても吸う事は無く、闇を集める力が強いのだ。
何も無くても、光江に闇が集まるのは確か。アコが闇を植え付けても、芽生えるまで少し掛かる。その間に闇を食らい、力を蓄えでもすれば・・・・・・。
「アァッ、考えてしまったぁぁ。」
頭を抱える土。
「わぁい、また釣れた。」
大漁、大漁。慣れた手つきで魚籠に入れ、ニッコリ。
「イイは釣りが上手いなぁ。」
一尾も釣れないのは、いつも通り。
「うん。」
ミカに撫でられ、とっても嬉しそう。
海底から海神の使わしめ甲、プカンと浮かびスイスイ。加津の国守ミカと、その娘イイが乗る舟に近づいた。
「こんにちは。釣れますか?」
堤防で声を掛ける紳士のよう。
「こんにちは、甲さま。」
鎮の西国と中の西国から出た兵は、その多くが和邇に食われる。
早貝、切猪、与志乃に仕磨、猪瀬でも港に入れてもらえず、もうギリギリ。
飛国から出た舟を見つけた兵たち、大喜び。飛国で暫く休んでから、松田で落ち合う事に。というコトで、松田を拠り所にしたのだ。
南国は険しい山で占められた、雨の多い地。西には狭門、南から東は険しく危ない海路。
信じ尊ぶ心や思いやる心は有るが、余所者には極めて厳しい。
鎮の西国や中の西国、真中の七国を毛嫌いしているので、港に入れなかったダケ。四つ国や中の東国の者なら、港に入れて休ませた・・・・・・ハズ。
「アレは敵なのですね。」
人には見えない、ずっと遠く。こちらへ向かう船影は、攻めてくる敵だった。
「戦うなら止めぬが、落とすのは人ダケに。物は困るのだ、イロイロと。」
「はい。海を汚さず、全て追い払います。近海は避け、光江を目指すでしょう。」