9-41 出来る限り多くの子を
鎮の西国、中の西国、真中の七国。統べる地にて神神、大パニック!
どど、どうする。闇喰らいの品が多すぎて、全て清められる気がシナイ。けれど、もし一つでも残せば? 考えたダケで恐ろしい。
「稻羽。いや、良い。」
杵築大社にて、大国主神。
「出雲には多くの品が入ります。鎮の西国からも、真中の七国からも。」
大国主神の使わしめ、稻羽。サラリ。
外海から内海に入れば、荒波に飲まれる事なく行き来できる。だから集まる。海を越えてきた叢闇の品、やまとで作られた闇喰らいの品。
どんな品にも込められる作り手の思い。幸せを願えば、幸せを運ぶ品に。思いやりを持って作れば、優しい品に。恨み辛みを打つければ、禍を齎す品に。
持つ者が闇に呑まれれば、良い品でも闇に染まる。闇喰らいの品は初めから、禍を齎すワケでは無い。人の手から手へ。多くの思いが流れ込み、染まってゆく。
人も物も同じ。光の中に居れば、明るく生き生きと。闇に踏み込めば暗く濁って、勢いを失ってしまう。
中の西国ダケでは無い。鎮の西国や真中の七国で出回っているソレは、濃く深い闇を纏っているのだ。
「さぁ着いた。」
舫い杭に縄を掛け、タマを舟から降ろしたシゲ。マルコとシゲコがトタッと、舟を降りる。
「タマ。」
ノリの舟に乗って、少し前に着いたミヨが手を振った。足元でコハルが、大人しく座っている。
ミヨは社の司の姪、タマは祝の妹の娘。二人とも狙われ易い。
ミヨには心の声が聞こえるので、攫われる前に気が付く。タマは水を操って、人攫いを片づけられる。それでも無くならない。
言い出したのはナント、玉置の国長ビビ。
死んだからと無かった事には出来ない。生き残った他のを釜戸社に引き渡し、裁かれるまで二人を良村で預かる事になった。
「ワンッ。」 タダイマ。
舟寄せまで迎えに来たマルに駆け寄り、尾をフリフリ。優しく撫でられ、ウットリ。
「タマ、ミヨ。ひしゃしぶり。あえて、うれしぃ。」
マルコを撫でてから、ご挨拶。
「うん、マルゥ。」
泣きながらマルに抱きつくミヨ。タマはタエに抱きしめられ、涙を流す。
「そろそろ行こうか。」
シゲに声を掛けられ、子らがニッコリ。
「はい。」
タマはマル、ミヨはタエと手を繋ぐ。マルの横にはマルコ、タエの横にはコハル。シゲコは前、ノリコは後ろを歩き、子らを守りながら歩く。
シゲとノリは思い出す。北山から救い出され、釜戸山に居た四人の姿を。ガリガリに痩せていた姿を。
健やかになって良かった。笑えるようになって良かった。
ふと思う。南では親を失い、苦しんでいる子が居る。一人や二人では無い。数えられないくらい居るんだ。飢えや寒さに苦しめられ、死にかけている子が。
全ての子は守れなくても、出来る限り多くの子を救おう。引き取れない子は、慈しみ育ててくれる人に託す。
死を願う子を一人でも減らす事が、残されたオレたちの務めだから。