9-40 人が居る限り
玉置の国長が、闇喰らいの石器を持っていた。親から子、孫へと引き継がれた品だ。人の世には他にも。
玉置の地に持ち込まれて直ぐ、宝玉神は御気付き遊ばす。けれど捨て置いた。
玉置の人は皆、宝玉湖の水を煮炊きに使う。川でも泉でも無く、湖の水を飲むから。
ザワザワ。ザワザワ。
「皆、心を静めよ。」
早く愛し子の元へ帰りたい大蛇神、ニッコォ。
「人の世には他にも、闇喰らいの品が有る。清めた石器のように、親から子へ受け継がれる物を奪うのは心苦しい。が、捨て置けぬ。」
ウンウン。
「闇喰らいの品を清めるよう、社へ使いを出す。違う考え、言いたい事が有れば唱えよ。」
シーン。
「無いようなので出そう。皆、宜しく頼む。」
「ハイ。」
閉ざされている隠の世から使い隠が来た。人の世を統べる神神、ビックリ! 『闇喰らいの品を、残らず清めよ』との仰せである。加えてビックリ。
それぞれの社へ使いを出し、清めの儀を執り行うよう伝え為さった。
頭を抱え為さったのは鎮の西国、中の西国、真中の七国を統べる神神。
闇喰らいの品が多すぎてクラクラ為さる。全て清めねば、どのような罰を受けるか分からない。良くて妖怪化、悪ければ?
「ししっ、シズエ。」
使い隠を見送られ、山守神。オドオド。
「はい。」
九尾を揺らし、ニコニコ。
闇喰らいの石器が出た玉置は、霧雲山の統べる地。それも、山裾の地にある大国。加えて戦好き。
ジワジワと闇を清め、力を奪っていた。とはいえ、統べる地から出たのは確か。
山裾の地には、戦好きが他にも。
豊田、北山、三鶴。川北、東山、武田、飯田。三鶴と飯田は他の村や社に見張られ、動けない。けれど、他はアヤシイ。
「やみゃごえ烏を、放ちまひょう。」
生まれたての小鹿のように、プルプル為さる。
「祝辺に任せては?」
ニッコリ。
「ハッ!」
その手があった。
「どうしよう、土。」
使い隠を見送られ、大貝神。ゲッソリ。
「子蜘蛛を放って、待ちましょう。」
遠くを見つめる使わしめ。
大貝山の統べる地には、闇喰らいの品が多い。耶万に滅ぼされた国に有った品は、大祓の儀で消えて無くなった。
煩わしい、コホン。難しいのが祀られた品。禍津日神に『御隠れください』とは、ねぇ。
「清められ、力を失ったなら。」
「いいえ。『残らず清めよ』との仰せです。」
その後、一月の間に数多の神が御隠れ遊ばす。
残された使わしめは皆、御待ち申し上げる。代替わり為さるまで社と地を守り、保つのが務め。
神は人の望みから御生まれ遊ばす。だから人が居る限り、決して諦めない。いつか、きっと。