9-39 後の事は、宜しく
コレは大事だ。この地に禍禍しい品が持ち込まれたのは、いつだったか覚えていない。それくらい前のコト。
「宝玉神。あの品、もしかすると。」
ドキドキしながら、使わしめケロ。
「耶万の神倉に納められた闇喰らいの品。と似た、何かだろう。」
ケロも使い蝌蚪も、仲良くポッカァン。中には驚き過ぎて、手足が出た蝌蚪も。
ガガが持っていたのは、父から譲り受けた品。その昔、祖父が戦場から持ち帰ったのだ。何も知らずに親から子、孫へと渡ったソレは闇喰らいの石器。
戦場でタップリ闇を吸い、満たされた事で心を持つ。
ガガの手に渡った時、チマチマ集めていた闇が跳ねた。玉置には戦好きが多い。『そのうち体を乗っ取って、闇の国を』と考えるも叶わず。
当たり前である。玉置の人は皆、宝玉湖の水を飲んでいたから。
人でも何でも生き物は、水を飲まなければ死んでしまう。だから飲むのを止められない。他の地なら川か泉の水を飲むが、玉置の人は宝玉湖の水を飲む。
決まっているワケでは無い。けれど当たり前のように、ゴクゴク飲むのだ。
タップリ取り込んだ闇を清められ、動けなくなった石器は嘆いた。このままでは干乾びてしまうと。そんな時、現れたのがシゲ。この男、強い。戦い慣れている。
ガガを操ろうにも力が足りず、イライラ。
ガガにとって石器は、父から譲り受けた宝。父は祖父から、『十二の祝いに譲られた』と話していた。譲るなら、いつか生まれる倅に。そう思っている。
見ず知らずの男に譲る? 有り得ない。
「呼んだか、マルコ。」
マルが良村に居るのを確かめてから、マルコの元へ。マルコに何かあればマルが悲しむ。だから文字通り、飛んで来た。
「ワン。ワワン、ワン。」 ヨンダヨ。ミテアノシナ、ヤナカンジ。
宝玉社の入口から顔を出し、石器の方を見つめる。社から出ようとしないのは、悪いのが溢れているから。
アレに触れれば、大好きなマルに会えなくなる。そんなの嫌だ。
「あぁぁ。」
とても嫌そうな声で、大蛇が一言。
化け王の仰った事を疑っていたワケでは無い。出来れば『外れて欲しいナ』と思ったダケで。
「クゥン?」 ドウシタノ?
早く清めて、帰ろうよ。
「マルコ、社の奥に居れ。良いな。」
「ワン。」 ハイ。
クルッと尾を向け、トコトコ。
『忌忌しい。どれだけ取り込んだのだ、全く』とブツブツ。
人の姿に化けた大蛇が、スッと目を細める。指の先から清めの水が一滴、闇を目掛けて飛んだ。次の瞬間。
「ギャァァァァァァァァァァァ。」
叢闇の品とは違う闇喰らいの品なので、清められた。とはいえ、人の手に余る品である事には違い無い。
人の世で、人の手によって作り出された闇喰らいの品。他にもゴロゴロしているのだろう。
考えたダケでクラクラする。早く帰ってマルの頬っぺにスリスリしたいが、和山社へ戻らねば。と、その前に。
「宝玉神。後の事、宜しく頼む。」
「はい。お任せください。」