9-37 戦好きなど、要りません
良村の犬が強いと知らなくても、ノリが強いのは知っていた。毒使い、というコトも。
シゲコにノリコ、マルコにコハル。四匹の犬が目をギラつかせ、幼子を守るように寝そべっている。コワイ!
コテンコテンに打ち負かされ、ギリギリ縛り上げられた悪者たち。幾人か手を噛み砕かれたが、元に戻らないダケで死ぬことは無い。
「で何だ。子を攫って、売っ払う気だったのか。」
ミヨを攫ってトクを脅し、社の司を辞めさせるツモリだった。なんて言えない。
「なぁシゲ。コイツら、どうする。」
「そうだなぁ。」
ギロリ。
・・・・・・こっ、殺される。
嫌だ、死にたくない。ごめんなさい。ほんのチョット、暴れたかったダケなんです。国長になったのは、戦を仕掛けようって。
諦めます、もうしません。だから殺さないで。どうしよう、どうすれば伝わる。社の司も禰宜も祝も、何も言わずに見てるダケ。
「この子たちは釜戸山に救われた、宝玉社の継ぐ子だ。」
強く望まない限り、玉置の外に出す気は無い。手を出すようなら踏み潰すぞ。いや、直ぐに切り取ろう。
「祝の力を生まれ持つ子に手を出せば、どうなるか知っているだろう。」
釜戸の裁きを受けさせる前に、甚振るか。
「玉置は変わったのです。戦好きなど要りません。」
釜戸山に送らず、片づけてイイかな。
社の司、禰宜、祝。トップ3が揃って、物騒な事を考えている。ある意味、当然か。戦好きを助ける気は無い。頭がオカシイとしか思えないから。
食べ物が足りない、なら戦だ。人が少ない、なら戦だ。薬が足りない、なら戦だ。とまぁ、何かと言うと戦を始めたがる。
「玉置の事は玉置に任せる。頼まれていた魚は、チャンと届けた。」
「頼まれていた、獣の肉も届けた。」
ノリとシゲ、見合ってニッコリ。罪人たち、真っ青。
アチコチから人が来て、作付けを手伝ってくれた。実るのはズッと先。それまで『食べ物に困らないように』と、いろいろ持って来てくれたのだ。
そんな人の飼い犬を、傷つけようとしたなんて。
皆の目がグサグサ刺さる。
止めてくれ、悪かった。魚も肉も手に入り難い。玉置には釣り人も、狩り人も少ないから。だから持って来てくれたんだ。なのに怒らせた。良村の人を、長と犬好きを怒らせた。
「また狙うだろう。」
それは・・・・・・その、ハイ。社の司の姪なので。
「気を張って、疲れているように見える。」
そう言えば叫んでたな。
「落ち着くまで預かろう。二人とも、どうする?」
ちょっ、ちょっと待て! 良村に連れて行く気か。手が出せなくなる、困る止めろ。断れガキンチョ。
うわぁ、頷いたよ。嬉しそうに。
せっかく国長になれたのに、アッと言う間だったな。もっと良い思い、したかったよ。オレが愚かだったのか、ヤツらが愚かだったのか。
いや、乗せられたオレが愚かだった。
「若いのが減るのはイタイが、子を攫うのは要らない。釜戸の裁きを受けてもらう。」
社の司は人の長。譬え大王でも、社の司には逆らえない。縛られたまま項垂れる罪人たち。
「舟が足りないなら、三鶴のを貸そう。」
三鶴の国、木下の村長ミキ。良村の商い人、シンの従弟である。頼まれていた織物を、玉置に届けに来た。