9-36 何も出来ないのか
「ウゥゥ、ウゥ。」
頭をガシガシ。
「アァァ。」
頭を抱える。
タマがオカシクなり始めたのは、三日ほど前。はじめは首を傾げ、空を見上げた。次の日からはブツブツ言いながらウロウロ。で到頭、叫び出した。
「ワン、ワワン。」 タマ、ボクダヨ。
マルの飼い犬、マルコです。コハルやコナツより小さいけど、大きくなったでしょう? キュルルン。
「アッ。」
フラフラしながら駆け寄り、マルコを抱き上げたタマ。頬をペロペロ舐められ、擽ったそうに笑う。
「よかったね。」
ミヨに話しかけられ、ニッコリ。
鎮の西国、中の西国、真中の七国から、多くの兵が海に出た。
戦、戦で海を汚し続ける人に怒りを覚え、海神は荒ぶられる。和邇を差し向け為さったのだ。
遠くの海で起こった事だが、タマを酷く苦しめた。
宝玉社の祝は皆、水を操る力を生まれ持つ。母は祝の末の妹。生まれるのが早ければ、タマの母が祝だったカモしれない。
北山社に閉じ込められていた時から、水を通して感じていた。その痛みからタマを守り、清めていたのはマル。
離れ離れになった事で、小さな体に宿る魂が叫ぶ。ピキッ、ピキッと罅が入り、壊れかけていた。つまりギリギリだったのだ。
心の声が聞こえるミヨは、苦しみ悩んだ。伯父に引き取られ、少しづつ話せるようになったが、まだ上手く伝えられなくて。
助けたい救いたい。なのに何も出来ない己を責め続け、涙が止まらなくなった。
宝玉の社の司、トクは苦しみ悶える。壊れそうな幼い魂を、守りたいのに守れない。救いたいのに救えない。人の長でありながら、何も出来ないのかと。
「お久しぶりです、トクさん。少し話せますか。」
良村の長、シゲがニコリ。
「はい。では社へ。」
「ありがとうございます。シゲコ、タマとミヨを頼む。」
「ワン。」 オマカセクダサイ。
社が目を光らせているが、きな臭い。新しい国長になったビビは若く、危なっかしい。他の人が選ばれなかったのは、糸を引く者が居たから。
玉置に巣くう、悪賢いヤツらは戦好き。暴れたくて移り住んだのに、思い通りにナラナイ。なら『操ろう』と考えたのだろう。
「ヨシ、今だ。」
トクとシゲが社に入るのを確かめ、悪いヤツらが動き出す。狙うは社の司、トクの姪ミヨ。
「ヴッギャァ。」
ミヨに伸ばされた手が、シゲコに嚙み砕かれる。
「ワオォォン。」 タスケテェ。
マルコが遠吠え。
焦る男たちに襲い掛かる、シゲの飼い犬シゲコ。
若いのは知らない。良村の犬は一匹で、十人は殺せると。目の前で牙をむく犬が、百戦錬磨のツワモノだと。
「ヴゥゥ。」 カッキルゾ。
足蹴にされてもヒラリと躱し、幼子を守る。
マルコは小さいが良村の犬。攻撃力は低くても、防御力は高い。大好きなマルを守るため、戦闘訓練を欠かさず受けている。つまり、とても強い。
「オイコラ。ウチのに何をする。行け、ノリコ。」
愛犬家ノリ、登場。飼い犬ノリコ、参戦。