9-35 分かっていても、気になる
「フゥゥ。」
山守神、ヘナヘナヘナァ。
神議りが終わり『叢闇の品』が祝辺から、和山社へ移された。
人の世から離れたのを確かめてから、静静と祝社へ。平良の烏が頂をグルリと飛び、山へ戻る。
凝りもせず崖を越えようとした祝は捕らえられ、獄へ放り込まれた。はい、その通り。ジッタンバッタン大騒ぎ。
霧雲山を崩す気ですか?
「祝は三日ほど、入れておきましょう。」
「そうね。」
出せば出したで騒ぐのだ。祝の居ない間に、思いっきり寛いだって良いだろう。ソレくらい許して。
隠神の御手により、神倉が建てられた。明くる朝、叢闇の品を納めるため、隠の世から出す。
「マル、どうしよう。」
「どぉしたの、タエ。」
「西国からね、いっぱい兵が来るの。強い国守が追い払って、光江に行くけど。」
「海、いけないね。」
「うん。・・・・・・タマがね、壊れちゃう。」
「エッ!」
大蛇は夜まで戻らない。だから使い蛇に、玉置の事を尋ねた。分かった事は二つ。
川田に仕掛けようとした国長が捕らえられ、宝玉の獄に入れられた事。新しいのも戦好きだが、社の司には逆らえない事。
玉置を仕切っているのは長では無く、宝玉社。だから戦を仕掛ける事も、攻める事も出来ない。
分かっていても気になる。
シゲは獣谷、ノリとセンは釣り。シンは商いで居ない。タケとムロ、カズは良山のドコに居るのか分からない。コタは田んぼ、コノは畑に居る。
二人は急ぎ、コノの元へ。田より、畑の方が近いから。
「マル、タエ。そんなに急いで、どうした。」
「カズさん!」
トコトコ駆け寄り、ガバッ。
タエはマルと手を繋いだまま、見た事をカズに伝えた。話し終えると頭を撫でられ、ニッコリ。隣でマルがマルコを従え、ニッコリしている。
あんなに怖かったのに、苦しかったのに嘘みたい。
「分かった。タエを玉置へ行かせられないが、タマとミヨに会う事は出来る。」
「ワン。」 ヨカッタネ。
カズの飼い犬、コナツが尾をフリフリ。
「確かタマには、水の声が聞こえるんだったな。」
カズから話を聞いた、シゲが呟く。
「海で起きた事でも、水から伝わるのか。」
「だとしたら、辛いでしょうね。」
コタとコノが、悲しそうな顔でポツリ。
まだ幼いが、タマの力は強い。宝玉社の祝よりも。人の長である社の司には、心の声が聞こえる。禰宜は風、祝は水使い。
継ぐ子の中に、守りの力を持つ者は居ない。祝の力を持つ者が力を合わせても、止められないだろう。
「シゲ。タマが望めば、良村に引き取ろう。」
ノリが問う。
「そうだな。先ず玉置に行って、話を聞くよ。それからだ。」