9-34 打って付け
やまと隠の世。和山社に戻り為さるなり大蛇神、和山三嶺の神で在らせられる烏神、狗神、鼠神を御呼び遊ばし仰った。『大蛇社へ』と。
三柱は御気付き遊ばす。化け王から闇喰らいの品について、良くない事が知らされたのだと。
隠の世から人の世、それも大蛇社まで行く。というコトは、アレらの品に心が宿ったか。
悪いカンは当たるもの。
闇喰らいの品は闇で満たされると、己を持つ事が分かった。それダケでは無い。闇喰らい、叢闇の品は他にも有る。
化け王の才を以てしても、消して無くす事は出来ないのだ。
「今やまとに有る叢闇の品は剣、鏡、珠の三つ。」
大蛇の目が光った。
「それらが呼び合い、合わされば。」
恐る恐る、狗神。
「やまとが闇に呑まれると。」
鼠神、真っ青。
「叢とは集める、群がる事を表す。というコトは。」
烏神、ガクガクぶるぶる。
「そうなる前に急ぎ、神倉へ。」
蛇神の仰せに三柱、黙って頷き為さった。
自我を持った叢闇の品に聞かれるとマズイので急遽、和山社から霧雲山、祝社に移動。神議りが終わるまで、隠の守が管理と警備を担当する。
人の守は山守社の祝に気取られぬよう、頂の泉に祈りを捧げた。清めの儀が執り行われる間、平良の烏が頂を囲む。
もし妨げられれば水が抜け、霧雲山が崩れ壊れると言われている。
山守の祝は言い付けを破り、崖を越えようとして絶叫。
山守の地を一歩でも出れば、山越烏にアチコチ突かれる。『この崖を越えてはイケマセン』と。
異変に気付いた社の司に引き摺られ、縛られて獄に放り込まれるのがオチ。つまり山守の祝を獄に入れれば、祝辺は安泰。
社の司に『放り込んでクダサイ』なんて、頼みたくても頼めない。だから祈るのだ。いつ祈るのか、どれくらい祈るのかナド、決まっていない。
決める気も無い。
和山社へ御戻り遊ばし、隠の神議りが始まった。
人の世で作られた品だ、隠の世では無く人の世に置く。闇を遠ざけるため、大貝神の使わしめ土の糸で包む。ココまでは良い。
それを納める神倉を、ドコに建てるか。
大蛇は覚えていた。叢闇剣の扱いについて、議った時の事を。
馬神が『耶万の大穴と同じモノが、他にも?』と問われ、鼠神がボソッと一言。『小さいのなら、ある』と確かに仰った事を。
「鼠神。前に耶万の大穴と同じモノが、他にも有ると。」
「はい。使い隠が見つけ、幾つか押さえて居ります。」
一つは一山にある、雫湖の底に開いていた穴。もう一つは蛇谷社があった地の、真下に開いていた小さな穴。何れも根の国からしか入れない。
他にも有るが、中つ国からも入れると判った。そんな所に納められない。だから話し合いの末、決まる。雫湖の底に鏡、蛇谷の地に珠を納める事に。
「万が一に備え、見せかけたモノも作ろう。」
大蛇は恐れた。『根の国からしか入れない』が、『根の国からは入れる』のだ。いつか悪しきモノが手に入れ、禍を齎すかもしれない。
「では、吹出山の頂に。」
小ぶりな山が三つ連なっている、吹出山には社が無い。麓に在るのだ。しかも社憑きは、妖怪の黒狼。
吹出山は黄泉平坂に繋がっており、人の世の外れには獄も。『見せかけ』を建てるには打って付け!