9-32 生まれるのか?
人の世は開かれたが、隠の世は閉ざされたまま。なのに舞い込む。
なぜ人は争い、奪い合う。言の葉が使えるのだから、話し合って収めれば良いのに。
「大蛇神。狭門を抜けた舟が南国、切猪沿いまで進みました。」
・・・・・・来たか。
「和邇は。」
「狭門の端からは、東の和邇に譲ったようです。」
穏やかな内海から、激しい外海に出たのだ。西に住まう和邇から、東に住まう和邇に引き継がれたダケの事。食い残しは、他の魚が片づけるだろう。
「どれだけ残った。」
「五十ほど。」
険しく通い難い海路を進み、津久間まで辿り着くのは二十ほどか。幾ら減っても、飛国から押し寄せる。
アコが蒔いた闇の種で思い知っただろうに。真中の七国は懲りず、求める。大王の中の大王? やまと全てを統べる力も持たず、奪い続けるとは。
霧雲山の統べる地に、仕掛ける事は無いだろう。
大貝山の統べる地に近づけば、妖怪の国守が気付く。許しなく入れば捕らえるか奪うか。何れにせよ、大貝社に知らせるハズ。
耶万から引かせるには、思い知らせるより他ない。
サッサと片づけ開かねば、干し貝や若布などが入らぬ。いつまでも兎和野や高平から仕入れていては、マルの楽しみが減る。
センは川釣りより海釣りが上手い。南で生き辛い者を救うのにも、障りが出ている。ゲンもシゲも表には出さぬが、知れば気に病む。
マルはカンが良いのだ。
「フフッ、驚いたな。」
おじい様。どうやら、ひ孫が生まれるようです。女の子ですよ。
「ずっと先の事だが。」
収集の才と祝の力を生まれ持つ娘が、アンリエヌとやまとを救う。しかも、その子は人。はじまりの一族は人では無く、予知は外れない。
となると、生まれるのか?
人として生まれた子が、化け王となる。有り得ない、違う生き物だぞ。どうやって子を生す。いや待て、考えろ。子を成す事が出来ない私に、何が。
次代に繋ぐため、人を利用する。瀕死の人に乗り移り、治癒の才を使う。それから時をかけ、修復と改造を。いや違う。となると、血を入れ替えるか。
祝の、それも強力な力を生まれ持つ子。あの鏡、人の手による品では無い。
・・・・・確か、居たな。乱雲山に引き取られた、強い子が二人。男の子と女の子。その二人から生まれる子が、山を出るまで数年。
未来は変わる。今は耶万の神倉に納められた、闇が群がる品。剣だけでは無い。鏡も珠も破壊できるのは、あの子だけ。
「行くか。」
人類が存在する限り、破壊できぬと伝えれば。
「その前に。いや、明日にしよう。」
もう遅い。
「おはよう、ブラン。早速で悪いが使いを頼む。鳥の谷を抜けて良山、大蛇社へ。蛇神に直接、会談を申し込んでおくれ。」
「はい。」
場所は、鳥の谷に在る崖の洞。急な話だ、日時は先方に合わせる。会談内容は、叢闇の品について。