9-31 取れ捕れピチピチ、お肉だぜ
「耶万を滅ぼすのは、万十と氛冶が引いた今。」
霧雲山に仕掛けなければ、殺される事は無い。
「祝を捕らえ、奴婢とせよ。」
大王の中の大王となれば、やまとを統べられる。
「ヲォォォォォ。」
舟の上で兵たち、大騒ぎ。鎮の西国、中の西国、真中の七国から、命知らずが押し寄せる。
食欲旺盛な和邇さんズ、大喜び。取れ捕れピチピチ、お肉だぜ。キャッホォイ!
「アッ、あの影は。」
海の暴れん坊、参上。
「和邇だぁ!」
そんなに怖がらないで。つぶらな瞳が愛くるしい、和邇ですヨ。キュルルン。
海の殺し屋? まぁソウだね。オレたちより大きな鯨にだって、ケンカ売るモンね。皆で!
「かっ、囲まれた。」
「お助けぇぇ。」
「怯むな、漕げ!」
ムリです。
海神の御許しを得ているのだ。見つけ次第、ギリギリを攻める。海に落とすのは人だけ、物は要らない。
それ行け良い子たち。ガンガン攻めなきゃ、食いっ逸れるぞ。
「こりゃマズイ。」
見つけた釣り人、揃って真っ青。
「暫くは、海に出られないな。」
巻き込まれてはタマラナイ。竿を置いて、セッセ。
「なっ、なんで。」
ココは内海。
「外海でしか、見ないのに。」
珍しいよね。
クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属。逆又とも呼ばれます。鯨を襲うので、土佐では『くじらとおし』と言うそうデス。
体長約9メートル。背面は黒、腹面は白色。頭は円錐形で歯は鋭く、背鰭は大きく逆鉾状。世界中の海に分布。つまり、内海に出てもオカシクない。
「賑やかですね。」
海神の使わしめ、甲。
「フム。」
『話し合って片づければ良いのに』と思いながら、クワァっと欠伸なさる海神。
陸の物を、海に入れるのは止めてほしい。だから和邇に伝えたのだ。『海に落とすのは、人だけ』と。
「狭門を通るのは、釣り人ダケになりました。」
「それは良い。」
鎮の西国、中の西国は諦めたか。飛国から出た舟は、幾ら残るカナ。そろそろ和邇を引かせよう。
「えぇい、怯むな。怯むなぁぁ。」
ドボン。
「たっ、すけ・・・・・・。」
ブクブクブクゥ。
赤く染まる海を、震えながら見つめる兵たち。気を抜けば和邇の餌に。お助けください、神様!