9-27 なぜ裏切った
才を奪われた王族は、日の光に当たらない限り死なない。才を奪われた王族の血が、その命を繋いでいるのだ。
不死の才とは違い、治癒する。試しに首を落としたら、病理的再生能力は無いと判明。心臓を摘出した瞬間、残骸が消滅した。とりあえず瞬間冷凍し、隔離保存。
頭が残っているから死なないのか、心臓が残っているから死なないのか、確かめるのは後回し。
「ふざけるな! 体を返せ、カー。」
「ベン兄上、それは無理です。消滅するのを、その目で御覧になったでしょう?」
「それは・・・・・・、確かに。」
首だけになっても死なない? 不死の才を持っていたのか。いや、それは無い。カーに奪われるまで、ベンには破壊の才が有った。複数の才を持てば死ぬ。
可能なのは収集者、化け王だけ。
「ジャド、ウィ。こちらへ。」
「来るな、殺す気だ。」
「おや、分かりますか。」
冷凍された心臓を取り出し、手の上で瞬間解凍。エドに微笑んでから、グシャリと握り潰した。脇机に置かれたベンの頭が、少しづつ炭化する。
「殺すのは」
熱分解され、消滅。
「頭部か心臓を潰せば死ぬんですね。次は、頭部で試しましょう。」
ジャドの頭を掴み、ニッコリ。
「待てカー。この通り、我らが悪かった。」
転がるように膝をつき、エドが平伏す。
「エド兄上に敵意が無くても、お二人は。ねぇ?」
ウィがベタッと平伏した。
「我ら三兄妹、化け王に忠誠を誓います。」
頭を掴まれたまま、ジャドが叫ぶ。
新たな一族。皆では無いが、才に似た力を生まれ持つ。
魔物なので、生き血を啜らなければ生きられない。よって、王城の地下に隔離されている。許可なく出れば即、極刑。
常に監視下に置かれているのだ。
アンリエヌの民は何事にも誠実に取り組み、勤勉に働けば、健康で文化的な生活が保障される。
紛争、闘争、戦争に巻き込まれる事も無く、平和そのもの。夜間外出は厳しく禁じられているが教育、医療、福祉も充実。
楽園のような国である。
化け王城内で暮らす魔物も同じ。
アンリエヌの民として定められた法を遵守し、誠実かつ勤勉に働けば身の安全と、不自由の無い暮らしが保障される。城内に居を構えるのは臣と、その家族。
少ないが、人も居る。
「兄上、お忘れですか。大王に即位した時の事を。」
「いえ、そのような! 我ら皆、カー王の忠実なる僕で御座います。」
「なぜ裏切った。」
才さえ有れば、このような。
「譬え才が有っても、勝てませんよ。」
エド、ジャド、ウィの目の前に剣が落とされた。ソレを見た瞬間、動けなくなる。
「為政者は皆、形は違っても同じ力を持つ剣を携えていました。不思議ですね。」
ゴクリ。
「どの品にも、ベンの血が用いられている。」
それは!
「あの時、伝えた筈です。『次はありません』と。」
三人は悟る。ベンの次は、己が処刑されるのだと。