9-25 いや待て
「なぜ動けない。」
「まさか!」
はい、大祓です。
音も無く現れた光の柱に、叢闇鏡と叢闇珠が閉じ込められた。壁に体当たりする度、力が奪われる。天も地も閉ざされ、逃げられない。
「全力で闇を叩きつければ。」
「仕方ない、やるか。」
どうぞドウゾ。
惜しみなく放出し、吸収した闇を使い果たす。調達しようにも身動き出来ない。
静かに迫る壁を前に、不安に襲われた。強い力を秘めていても所詮、物は物。闇を取り込めなければタダの古物。
鏡は対国から、珠は岐国から見ていた。この光は、あの光とは違う。天と地の神が関わっている。
叢闇の品だ、消滅する事は無い。それでも暫く、眠り続けるだろう。その間に破壊されたら?
「どれだけ残っている。」
「自我を封じる位は。」
誰の手に渡っても、眠っている間に取り込めば良い。
人は愚かで欲深い生き物。いつでもドコでも、必ず闇が渦巻いている。ソレを吸収すれば、自由に動けるハズ。それまで待てば良いダケの事。
「悟られるなよ。」
「解っている。」
天と地を繋いでいた光の柱が、シュッと短くなった。光の中で鏡から珠が離れる。祓われても闇を纏うソレに、大蛇神がチョンと触れ為さると。
「ヲォォォォォ。」
「ヴォォォォォ。」
耳を劈く爆音が中の西国に響いた。急だったので、数多の神がパタンと御倒れ遊ばす。暫く、キーンと響くでしょう。御大事に。
「驚きました。」
「えぇ、真に。」
「離れたダケで、壊れていません。」
牙滝神の使わしめチュウ、黒狐神の使わしめチイ、大国主神の使わしめ稻羽。揃ってパチクリ。
あの大祓に耐えるとは、どれだけ溜め込んでいたのだろう。確かめようが無い、けれど気になる。
闇喰らいの剣は耶万の神倉に納められた。大貝神の使わしめ、土の糸で包まれ、シッカリ守られている。
根の国を通らなければ、あの大穴には入れない。なのに動いたと。
「人の世には残せぬ。隠の世、和山社へ持ち帰る。」
「では、神倉に。」
「ウム。」
タヤと念珠の隠れ家と同じような空間が、中の東国で見つかった。大きさはイロイロだが、何れも人の世から離れている。
土の糸で包んで神倉に納めれば、悪しい考えを持つモノから守れるハズ。いや壊そう。
叢闇、闇喰らいの品は禍を齎す。
我には壊す事も、消して無くす事も出来なんだ。となると畏れ多くも、天之御中主神に御頼みするより他。
いや待て。神では無いが、御坐す。
「皆、疲れたろう。ゆっくり休んでおくれ。」
「はい。ありがとうございます。」