9-24 性懲りも無く
もっと闇を、力を得なければ引き込めない。鏡、珠、剣が揃って初めて、闇の扉が開く。光を駆逐し、闇の世を築くのだ。
封じ込められ、最早これまでと観念した。
いやはや、話にもナラナイ。愚かな生き物だよ、人とは。己を過信し身を滅ぼす。チョイと欲を突いたダケで、封印を破ったのだから。
持ち出され、権力者の手から手へ。海を越えるとは思わなかったが、まぁ良い。我らは存分に楽しむダケ。欲しければ呉れてやろう、本物の絶望を。
本城に出城、堡の内外。兵士の骸を啄む烏は悼まない。野で死に葬られず、嘴を避ける事も出来ないのに。
彷徨う事すら許されず、闇に染まった魂は極上。人でも妖怪でも同じ。憐れむように流れる川や、嘆くように戦ぐ葦。闇を味わうなら、戦場に限る。
「カー様。王城より、大王の使いが参りました。『明晩、謁見を賜りたい』との事。」
「そうか。『次の新月、離宮へ』と伝えよ。」
「ハッ。」
化け王城内では『カー様』か、『カー王』と呼ばれている。
多くが住み込みで、通いの者は数えるホド。アンリエヌの民も親しみを込めて、そう呼んでいる。『化け王』と呼ばれるのは、離宮で勤めている時くらい。
王位を奪って暫くは、化け王城内で執務を熟していた。アンリエヌの民なら良いのだが、外国の者を城に入れるのは良くない。
化け王城は才を奪われた者や、囚人が入れられる場所だったから。
王城は廃墟。地下には新たな一族と、四人の王族が暮らしている。
上に新しい王城を築くとイロイロ面倒だ。そこで離宮を建てる事になったのだが、困った事にアチコチから宣戦布告。
新王は武人だが、力を持たない第五王子。
才を奪われた『はじまりの一族』など、敵では無いと思ったのだろう。アンリエヌを奪いに来た。収集の才を持つ化け王に敵う生物など、存在しないのに。
カーは戦争嫌い。早期解決のため全力を尽くし、広大な領地を手に入れる。『従属国、または属領地に』という話も出たが、面倒なので滅ぼした。
永久中立を宣言し、離宮を建設。化け王城から少し離れた場所を選んだのだが、アンリエヌの中央だったのは偶然。
才を使えばアッと言う間に、機能的で洗練された城が完成。離宮だが、表向きは王城なのだ。
山城なので二階建て。一階は官公庁、二階は執務室。半地下には厨房や食堂、洗濯場や休憩室など。
資料保管庫には化け王城に繋がる、魔物専用の通路が隠されている。
勤め人が暮らし易いよう、城下町も整備。病院や薬局、学校に図書館、住居兼店舗の商店街も作った。
兄姉が廃墟と化した『王城を建て直せ』と言ってきたが、無視。跡地を整備して劇場と公園、宿屋を建設。今では人気の観光地になっている。
結果、四隣から同盟申し入れが殺到。
アンリエヌは高峰に囲まれた山国。森は深く険しく、視界が悪い。つまり天然の要塞に守られている。加えて国王は化け王。譬え攻められても、『備蓄が増えた』としか思わない。
ローマ帝国から敵認定され、バンバン攻められるも何処吹く風。『食糧が増えた』とか、『収納庫を拡張しよう』など、ノンビリ構えている。
人類が滅亡しても、数千年は生きられるだろう。
「この忙しい時に。」
性懲りも無く、まだ王位を求めるか。




