5-8 子の家
乱雲山には、多くの妖怪がいる。定番の狐、猫、烏。他にもいろいろ。それらを束ねるのは、雲井神の使わしめ、ゴロゴロ。猫股である。
仔猫の時、雲井神に撫でて頂き、喉を鳴らした。それからゴロゴロと呼ばれている。
仔猫なら良い。しかし、猫股である。正直なところ、改名したい。
「ゴロゴロさま。何か、お探しですか。」
「山にな。強い、何がが入った。」
「そうですか。」
「フク。心当たりがあるなら、申せ。」
「釜戸山から来た、稲田の子らでしょう。」
「稲田の子か。」
野比の祝が、言ったらしいな。釜戸山でも日吉山でもなく、乱雲山で、と。その子らから生まれる、狩り人になる子を、霧雲山へ、か。
霧雲山の、祝辺の守まで動いた。あぁ、気が重い。マタタビくれぇぇぇ!
祝は、強い力を持っている。とはいえ、祝辺の守。・・・・・・人か?
『人じゃありません』と言われても、驚かない。むしろ、頷く。気がかりがなくなり、心が安らぐだろう。
「・・・・・・、ゴロゴロさま。」
「ニャッ。」
ね、猫が、出てしまった!
「稲田の子。子の家で、育てようと思います。」
な、なんと愛らしい。
「そうか。好きにせよ。」
何だ? その手は。フクよ、モフモフする気か!
子の家。親のない子を守り、育てる家。どの山にもあるが、乱雲山では珍しい。
そもそも、親のない子が少ない。子の家で暮らすのは、他の山や村の子。皆、はじめは大人しい。見捨てられないように、良い子を演じる。
しかし、捨てられることなど、有り得ない。そうと分かると、甘える。中には、手が付けられない子も。
セイ、一つ歳下のヒサ。連んで、好きに暴れている。
「ねぇ、聞いた? 稲田とかいう村から二人、来るんだって。」
セイが、大きな声で。
「稲田? 聞いたことない。」
ヒサが顔を歪めて。
「また、はじまった。」
嫌そうな顔をして、ノブが。
「どんな子か知らないけど、いじめる気だろうな。」
呆れ顔で、ダイが。
「ここに来るってことは、拾われた?」
眉をひそめて、ケイが。
「守に、認められた子かも。」
明るい声で、ケンが。
「えぇぇ。そうなら、凄いな。」
四人は額を合わせて、頷いた。
「はぁ? 何言ってるの。」
「そんなこと、有り得なぁい。」
セイとヒサが、見下すように言う。
「有り得ないことなんて、ない。それより、手を動かせよ。さっさと片付けろ。」
「何よ、ノブのくせに。」




