9-21 あぁっ、もう!
叢闇剣、叢闇鏡、叢闇珠も全て、押し付けられた品。贈られたのでは無い。なぜって? 禍を齎す品だからデス。
闇喰らいの品を手にした者は、必ず血を求める。戦狂いになるのだ。攻めて攻めて攻め続けて、多くの命を奪う。
闇喰らいの品は禍を貪り、溢れる闇を取り込んだ。里一つ、村一つ、国一つ。
骸の上に築かれた国は直ぐに朽ち、病を撒き散らす。死肉を食らった鳥が、離れた地に病を運ぶ。
アチコチで噴き出す闇をジックリ味わい、闇喰らいの品は力を蓄えた。
権力者どもは求める。
叢闇鏡を手にすれば、巨万の富を得られる。叢闇珠を手にすれば覇者になれる。闇喰らいの剣を手にすれば、大陸の覇王になれる。そう信じて。
力を求めたのは、長や王だけでは無い。
宮廷に仕えた宦官。色仕掛けで篭絡し、成り上がる者。戦に狂う王を操り、政治の実権を握る者。諫言を聞き入れない主を見捨て、民のために生きる者など。
賢い者は気付く。この品が有る限り平和は訪れない。禍を遠ざけるには遠くへ捨てる、いや欲しがる者に与えれば良い。
闇喰らいの品は海を越え、やまとへ。剣は儺国、鏡は対国、珠は岐国に持ち込まれた。それからだ。アチコチで、激しい戦いが始まったのは。
「東へ行こう。」
「中の西国か。」
鎮の西国は薄かった。闇の種が生長し、光に変えたから。中の西国は、西の端が清められたダケ。奪えるだけ奪って、二つの品は飛び立った。
「来ましたよ。大国主神、シッカリなさいませ。」
「ウ、ウム。」
大祓の儀は一柱でも逃げ出せば、中つ国が滅ぶと言われている。
隠の世は頼れない。木俣神にも白兎にも、稻羽にも断られた。となれば、どうする。力を蓄えた闇喰らいの品、壊すには。
ん、奪えば良いのでは? 鎮の西国で取り込んだ闇を、残らず清めれば脆くなる。動かなくなるまで奪い、砕けば片づくハズ。
頼り無いナンテ言わせない。他の神を巻き込みたくなかった、それダケの事。とでも言えば、イケル!
「病や、思いがけず受ける災いは防げても。」
「そう言うな、稻羽。」
御目が泳いでマス。
「四の五の言ってナイで、サクッと清めてください。」
ギュンと引き合い、バチッと離れる前に清める。
壊せなければスゴイ事になるよ。それはもう、スンゴイ事にね。あれ、エッ。グルグルし出した。
「大国主神、今です。さあ!」
・・・・・・あれ? ハッ。大国主神なら御考え遊ばす。『この地に溢れた闇を取り込ませてから、纏めて清めよう』と。
あぁっ、もう!
頭が痛い、クラクラする。幾ら何でも難し過ぎます。強い清めと守りの力が無ければ、そんな事できませんよ。目を覚まして。
夢の中ではアリマセン、逃げちゃダメ。
木俣神に御願い申し上げ、大蛇神に言伝を。
闇喰らいの品は禍禍しく、中の西国で闇を取り込めば壊せない。アレを清められるのは隠神か、狭間の守神。
「探さないでください。」
そう言い残し、杵築大社を飛び出す稻羽。
木俣社に飛び込んだ時、赤い稲妻が走った。はい、その通り。手遅れです。