9-19 動き出した闇
対国で叢闇鏡、岐国で叢闇珠が脈打つ。フワッと浮かび、引き寄せられるように儺国へ。
「足りぬ。」
「仕方ない。」
鏡面から暗紅色の光が放たれる。珠は即座に応え、乳白色から緋色に変わった。
鏡と珠が宙に浮き、弾くように離れる。珠は北、鏡は南。時計周りにグルグルと、鎮の西国に溢れる闇を吸収。
「この程度か。」
「そう言うな。」
儺国で弾けた実が闇を取り込み清めた事で、叢闇鏡と叢闇珠は力を失う。ソレを補う禍禍しさを感じた。
三つの魂を取り込んだ妖怪の咆哮が、禍を齎す何かを引き寄せたのだろう。
アチコチで戦が繰り広げられているが、激しかったのは北部。祝の力で清められ、思うように集まらない。苛立ちを隠せない二品は思い立つ。
「残留思念から、面白いモノを見つけた。」
「耶万か。」
アンナとマリィ、二つの個体が死んだのは采。
耶万に敗れ、取り込まれた国の一つ。強い力を持つ何かが、脅威を与えている。ならばソレを取り込み、奪えば良い。
小競り合いを戦に、戦を大戦に。負の感情を大量に取り込めば覇者となれる。物が人を動かす時代が、直ぐソコまで来ているのだ。
「アレの後に来たのは、天運だろう。」
鏡に填め込まれた珠が妖しく光り、鎮の西国を照らす。眠っている生き物からも闇を奪い、鳴動した。
「ヒッ!」
大貝神の使わしめ、土が飛び起きる。糸が揺れたから。
「確かめねば。今、直ぐに。」
カサカサと外へ出て、ボンッと巨大化。ズササと耶万へ急ぎ、ピタッ。
「閉ざされたままか。」
一山からの道は閉ざした。この姿で行けて、近いのは。
「吹出山。」
シュババと向かう。
黄泉平坂を通り、根の国と中つ国の境へ。ポンと小型化し、大蛇神の抜け殻で作られた通路へ。
「土さまぁ。」
半べそ子蜘蛛たち、ワラワラと土に駆け寄りスリスリ。
怯えるのは当たり前。土の糸でグルグル巻きにされ、埋められていた闇喰らいの剣が、毬のように跳ねている。
弾力性が無いのか、それとも重いのか。ポンポン度は釣り上げられた鰺レベル。
「夕餉を食べて直ぐです。糸が揺れました。」
「少しして静かになって、ホッとしたらカタカタって。」
「また少しして静かになって、ガタガタって。」
土の足に縋りながら、子蜘蛛が語る。
異変に気付いた子蜘蛛は迷わず、伝声管ならぬ伝声糸を使おうとした。その時、ボコッ。外へ出さぬよう飛び掛かり、必死に押さえるも飛ばされ、戻って押さえて飛ばされて。
「皆、痛みは。苦しくは無いか。」
巨大化したまま、土。
「はい。」
子蜘蛛たち、キュルルン。