9-17 問題、山積み
魂に刻み込まれているのだろう。死して猶、日の光を恐れるソレは夜の暗さに紛れ、移り動く。波の間を漂う海月のようにフヨフヨと。
体は朽ち果て、形の無い魂だけが残された。帰りたくても帰れない。それでも事を成し遂げれば、アンリエヌの地を踏める。そう信じて。
「何だ、この感じ。」
「前にも有った。」
「・・・・・・そうだ!」
「うん、思い出した。」
海を越えて来たフヨフヨ。化け王の許し無く国を出た、アンリエヌの『新たな一族』に違い無い。使い隠たちは飛び立つ。
中の東国に続き、鎮の東国と南国。四つ国も開いた。けれど隠の世は閉ざされたまま。
人の世は隠も妖怪も、好きに行き来できる。
大貝山の統べる地に閉じ込められていた、アンナとマリィの細胞が動き出す。完全に力を失い、分裂増殖できない。
それでも西を目指すのは、アンリエヌに帰りたいから。
ゾワッ、ゾワゾワゾワ。プックゥゥ。
「ブゥ!」 キタ!
響灘の底にある穴門から、鮐神が御叫び遊ばす。驚いた使い隠たち、揃ってプクプク、プックゥ。
『鮐神』から『鰒神』への改名を御考え中に通った、アンナとマリィの残滓。
正確には舟に潜んで、響灘を越えたのだが。
「ブゥ、ブブブゥ。」 イソギ、ナギヤマノヤシロヘ。
鮐神。腹部をパンパンに膨らませ、プリプリ。
「ブゥッ。」 ハイッ。
使い鮐。パンパンに膨れた腹を凹ませ、ビュン。早い早い。ジェットエンジン、全開です。
中の東国で死んだ、いや食い殺されたアンナとマリィ。きれいサッパリ消えて無くなるハズだったのに、細胞の一部が残った。
譬え何かに吸収されても、思うように動けない。そんな残滓でも、アンリエヌの『新たな一族』だったモノ。
他の『新たな一族』フェンも、やまとに上陸した。竪羅山と穴門は近い、とも言える。アレらが融合しても脅威にはナラナイが、用心の上にも用心が肝要だ。
舟が入るのは儺国か珂国。儺国なら津佐か、琅邪の辺り。珂国なら高代。
镾灘を目指さず、真っ直ぐ進んだ。儺国だろう。
対国と儺国は隣。残滓で、あの禍禍しさ。合わされば叢闇鏡、叢闇珠が引き合う。
脈打ち重なれば、叢闇剣を引き寄せるか、引き寄せられるだろう。
「チュゥ。」 オナカイタイ。
蝙蝠神、思わずポツリ。
食中りでも食べ過ぎでも無い。ストレスによる胃壁防御機能の低下と、胃酸の過剰分泌が主因。そう、胃潰瘍である。
郡山に御坐す猫神もタイヘンだが、竪羅山に御坐す蝙蝠神も似たようなモノ。次から次へと問題、山積み。
お猫サマより御小さい、蝙蝠にはツライのよ。
「ニャァ。」 アタマイタイ。
木天蓼を前に、猫神がポツリ。
好物でヤル気を出していたが、もう限界。国つ神、シッカリ為さいませ! まさか、隠神を過労死させる心積もりで?