9-16 残るなら従え
鎮の西国の北に儺国がある。里は村に、村は国に組み込まれ、戦が絶えない。それを纏めるのが儺王。
その儺に闇が集まった。
ヴォン!
闇の実が弾け、光の雨が降る。届けられた光は闇を清め、輝きながら土に溶けてゆく。鎮の西国の半ばから、渦巻いていた闇が消えた。
「これで暫くは、過ごし易くなる。」
シミジミと猫神。
「そうですね。」
使い隠、ニッコリ。
「大国主神。儺から生えた木? から、禍禍しい実が生り、ソレが弾けて光が降り注ぎました。」
「ん、木? 実が弾けて光とな。」
「はい。」
フムフム。鎮の西国から溢れた闇が、残らず清められた。なんと喜ばしい!
大祓の儀で清らになったのに、始められた戦により渦巻いた。その闇が清められたと。ウンウン、良かったヨカッタ。
・・・・・・ナニ、清められたのは半ばダケ?
なぜマルっと清めぬのだ。儺から飛び散ったから、そうなったと。ええい言うな。ん、中の西国も清められたと。それを早う言わぬか。
・・・・・・西の端だけ? もっとドバッと清めれば良いモノを。響灘が清められた。そうか、それは良かった。
「トコロデ、ソノキノタネ。ドコニアル。」
なぜ、片言なのですか。
「ワカリマセン。」
使い兎までカタコト。
「耶万から引く。」
「サミさま!」
「聞かぬ。アレを見ても、まだ戦うと言うのか。」
儺王の四彦、サミ。
幼子の頃から一人づつ、兄を陥れたり死なせたりして跡継ぎになったキレモノ。末の妹、ココにダケは優しかった。
父に代わって出た戦に勝ち、戻ったサミは激しく怒る。
ココを奪われたと知ってからだ。戦の術より、謀に重きを置くようになったのは。
「父王は引き際を誤った。耶万にはバケモノが居る、人の力では敵わない。だから引く。私は大王、儺を守る。嫌なら儺を出ろ、残るなら従え。」
「サミさま。それでは死んだ者が浮かばれません。ココさまも」
「ココは死んだ。あの子は戦を嫌う優しい子。弔いの戦など望まぬ。」
臣を前に、ハッキリと言い切る。
「それは」
首筋を切られ、血がプッシュゥ。
剣を振り、血を飛ばしギロリ。ドタッと倒れた骸を指し示し、ニヤッ。
「もう一度、問おう。儺を去るのか残るのか。」
サミは『去る者は追わず、来る者は拒まず』を貫いている。裏切ったり背かない限り、殺される事は無い。
幾人か、頭を下げて出た。サミは黙って頷き、動こうとしない。
「サミ大王に従います。」
残る事を選んだ臣たち、サッと平伏す。