5-7 雲井社
驚いたわ。祝辺の守を動かすほどの何か、良くないことが起こる。どちらかに強い力があって、力を継ぐ子が生まれる。そういうことよね。乱雲山から、出さないようにしなくては。
「ツル。」
雲井の社の司、ツル。祝女と、狩り人の子で、獣の素振りがわかる。元、狩り人である。
「稲田のツウとコウ。二人の子を、社へ。」
「はい。」
ゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロ。ピシャッ、ゴゴォォ。
空を見た。厚い雲が渦を巻きながら、ズンズンと近づいてくる。
「ツウ。」
コウが手を繋いでくれた。
「雨、降るのかしら。」
「わからない。怖い?」
「怖くない。コウがいるもの。」
「そんなに怯えなくても良い。」
「そうそう。いつもこんな感じだよ。」
木菟と鷲の目が言った。木菟は野比の社、鷲の目は野呂の社の忍び。どちらも霧雲山の、祝辺の守の使いでもある。
守には、とても強い力があって、霧雲山を守っている。だから、誰も逆らえないと教えてくれた。どんな人なんだろう。
「二人とも、おいで。」
釜戸山の狩り人、タカとオタが言った。
「はい。」
洞の中は、家のようになっていた。奥には川が流れていて、とても静かだ。段の滝の洞のように、どこかに通じているのかな?
「遠くに行ってはいけないよ。戻れなくなる。」
「どこに出るんですか。」
「さぁ。ただ、この先に滝がある。落ちると、戻れない。決して。」
「すぐ、戻ります。」
「好い子だ。」
オレはツウと、幸せに生きるんだ。命を懸けてまで、知ることではない。だから戻る。
賢い子ね、コウ。あの川は、根の国へ続いているのよ。
「フクさま。」
「なあに、サエ。」
「子の家で預かる子ら、どんな子でしょう。」
「男の子はコウ。稲田のジロの孫で、賢いわ。女の子はツウ。何か、あるわね。」
「何か、とは。」
「はっきりとは、ね。会ってみないと。けれど、何かを持っている。そんな気がするの。」




