9-11 どんな姿でも生きていれば
真中の七国。七人の大王が同じ時、同じ所で死んだ。纏めて殺された。人でも妖怪でも無い、バケモノに食い殺されたのだ。
生き残りは誓う。耶万には決して仕掛けない、手を出さないと。
暴れるバケモノを見たのは、真中の七国の者ダケでは無い。生き残りの中には鎮の西国、中の西国からの使いも。
耶万に奪われた人が売り飛ばされたと知り、来ていたのだ。
奴婢として連れて来られ、死んだ人の骨や品は引き渡された。けれど生きている人は取り戻せず、話し合いを続ける。
驚くほどアッサリ引いたキッカケは、あの騒ぎ。
思い付きで言ったのだ。『耶万から買った奴婢も、いつかバケモノに変わるカモしれない』と。
ガタガタ震え、歯をカタカタと鳴らしながらウンウンと頷き、転がるように逃げ出す。
七国の人たちも心の隅で、同じことを考えたのだろう。暫くすると腰に縄を巻かれた人が、ゾロゾロやって来た。
ガリガリに痩せた人、足を引き摺って歩く人。ずっとブツブツ言う人、顔が酷く腫れた人、遠くを見つめて笑う人。心を壊され、笑えなくなった人。
生き残り全て、西国に連れ帰った。舟を貸してくれたのは怖かったから。
いつバケモノに変わるのか、誰にも分らない。『人が足りない』とか、『死ぬまで扱き使う』とか言っていたら、死んでしまうと思ったのだ。
「連れ帰った者から、耶万の事は聞けたのか。」
「いいえ。『やま』と聞くだけで、動けなくなります。」
・・・・・・ココ、どこに居るんだい?
耶万の大王は、差し出された姫や彦のうち、子には何もしなかった。木で作られた獄に入れ、水も食べ物も与えず、捨て置いたらしい。
痩せても生きていたのは、誰かがコッソリ差し入れたから。
社の司と大王は組み、いろいろ悪さを。だから他の誰か。食べ物を手に入れられて、見張りの動きを知っている誰かが命を救った。
「申し上げます。耶万に送った津佐の水門頭、ウナが戻りました。耶万から引き取った罪人を一人、連れ帰ったとの事。」
「その罪人は何をした。」
「人を攫って、売り捌いたと。」
「直ぐに連れて来い!」
「ハッ。」
耶万から引き取った罪人。他に連れ帰ったなら、ココが居れば真っ先に。
・・・・・・頼む、生きていてくれ。どこでも良い。どんな姿でも生きていれば、それで良いんだ。
社の司、祝も何も言わない。いつ、どこで、どれくらい居たのか分からなければ、どうにもナラナイ。そう言われれば、黙るより他ない。
「儺王。」
「来たか。」
ウナに連れられ男が一人。騒がず暴れず、静かにしている。何だ、この感じ。・・・・・・重い。
「津佐の水門頭ウナ。耶万から引き渡された罪人を一人、連れ帰りました。コレは大野のガガ。多くの人を攫い、アチコチに売り捌いた『人で無し』です。」
「大野のガガよ、真を話せ。儺王の娘ココ、珂国の長の娘ミア、対国の兵頭の倅カセ。三人の子、覚えは有るか。」
「名は知りませんが、獄の子は攫いました。王とか長とかの子は入れられる獄が違うんで。フッ。死んだ耶万王はね、嫌ってましたよ。真中の七国に中の西国、鎮の西国は特にね。」
ガガの目が、ギッと釣り上がる。