9-10 サッサと寝ろ
ど、どこから出て来た。アレは人か? 耶万の社の司は、人では無いのか。だとすればマズイ。
生き残りから聞いた話では、耶万にはバケモノが居ると。黒いモヤモヤを操って、多くの兵を飲み込む。そう言って酷く怯え、胸を押さえて苦しみだした。
もしコレがバケモノなら。儺だけで無く、鎮の西国に禍を齎す。
何としても止めなければ、いや止める。殺すか。どうやって殺す、バケモノだぞ。
「社の司は人の長。なのに殺すの? 酷いなぁ。」
「何を言う。」
「何って、心の声を聞いたダケ。みんなで。」
ザクたちがニコニコしながら、獄の前に集まった。皆の力を集めて作った、あの耳栓を付けて。
「耶万に禍を齎した儺国。いや鎮の西国、中の西国、真中の七国を許す気など、全くアリマセン。」
ズバッとアコ。良い子たち、ニッタァ。
「質として耶万に来た人は、見つかりませんでした。けれど攫った者は裁きを受け、苦しみながら根の国へ。」
コイツ、何を。
「裁きを受け、死を待つのが一人、残って居ります。引き渡しますので、儺国へ連れ帰ってください。」
引き渡すって言われても、困る。
「煮るなり焼くなり、お好きにどうぞ。」
ヒッ! そんな目で見るな。断れば殺すってか、止めてくれ。死にたくない。分かったよ、連れ帰ればイイんだろう。
「日が出たら直ぐ、漕ぎ出すと良いでしょう。光江までお送りします。」
ニッコリ。
「送るってぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
パチクリ。何が起きた、ココはドコだ。ってか、誰だコイツ。
アサの力で耶万の獄から、光江の獄まで飛ばされたウナ。隣に居るのは、大野のガガ。
「潮の臭い、人が居ないから光江だな。オレは大野のガガ。社の司が言っていた悪いの、罪人だよ。」
・・・・・・えっ。
「鎮の西国かぁ、遠いな。おやすみ。」
ゴロン。
「オイ、寝るな。どういうコトだ、言え。」
「日が出たら舟に放り込まれて、沖に流される。シッカリ漕がなきゃ干乾びるか、沈められるぞ。生きて帰りたければ休め。サッサと寝ろ。」
姫さまを攫ったのはコイツか? 思ったのと違うな。まぁ良い。生まれた事を悔いるまで、たっぷり甚振ってやる。
「オイ起きろ。裁きを受けるまで、死ぬなよ。」
「裁きなら釜戸と浅木、耶万でも受けたよ。西国でも裁かれるってダケさ。」
何だコイツ、死ぬのが怖くないのか?
「もう寝ろよ。水門頭でも舟を漕ぎ続けるの、疲れるだろう。オレをアテにするなよ、死ぬぞ。」
川ならイケルけど、海はなぁ。ってか、サッサと寝ろよ。夜が明けたら直ぐ、コイツが乗って来た舟に放り込まれるんだ。水と食べ物も、ポイと入れて。
「オイ、聞かれた事に答えろ。」
・・・・・・。
「オッ。」
鳩尾を殴られ、気を失った。
「フゥ。やっと静かになった。」
腕が攣らないよう、仰向けにしてからゴロン。