9-8 流し込みますヨ
耶万には敵が多い。冬を越せたし、貰った種籾で作付け出来た。けれど戻らない。
戦を仕掛けたのも、攻め込んだのも大人。縁の者を殺したのも、死なせたのも大人。親無しは皆、強く怨んでいる。
「大王の使いなら、証を持っているのでしょう。さぁさぁ今すぐ、見せてください。」
クッ、そんなモノは無い。着物や持ち物で判るだろう。
「困りましたね。そうだ、夢を見ますか?」
何を言い出すかと思えば、夢か。ハハッ。
「耶万で見る夢といえば、アレですよ。」
アレって、『耶万の夢』じゃナイよな。
「真を話しなさい。でなければ、流し込みますヨ。」
心の声が聞こえる禰宜、ザクが微笑む。側仕えが器に何かを入れ、瓢箪を傾けた。トクトク注ぎ、何かでクルクル。
「い、嫌だ。死にたくない。」
ウナが泣きながら、ズルズル後退る。
「喉が乾いたでしょう。さぁ、どうぞ。」
ザクとアサ、ニッタァ。
「要らない、飲まない。飲まないぞ。」
ガタガタ震えるウナ、失禁。
「きっと美味しいですヨ。」
津佐の水門頭ウナは、確かに儺国からの使い。証が無いのは、持たされナカッタから。耶万社の良い子たちは気付いている。
それでも偽物として扱うのは、イロイロあれこれ引き出すため。
ウナを動く人形にしようと、アサが呼ばれた。
先ず闇に首まで沈めて、『耶万の夢』だと思い込ませたモノをドクドク流し込む。それから毒消しをチラつかせ、洗い浚い吐かせるツモリ。
浅木から届けられて直ぐ、大野のガガに闇の種を植え付けた。魂を戻されたのに暴れず、静かに囚われている。
ユイの先読によれば、儺国でイロイロ言われ、実を付けるらしい。アレを連れて戻らせるには、フフッ。
「やっ、ヤめろ。やメテ、くダしゃイ。」
声をコロコロ裏返しながら、ウナが叫ぶ。
「はぁい、口を大きく開けてぇ。」
底を抜いた、小ぶりの瓢箪をイン。器から『耶万の夢』と思われるモノが流され、喉の奥を通る。
「ンゴ、フゴゴ。」 イヤ、ヤメテ。
首まで闇に沈められ、身動き出来ない。首を振ろうにも、額と顎をザクに押さえられ、全く動かせない。オクチの中は瓢箪でイッパイ。
舌を使って押し出そうにもビクともシナイ。軽い木の椀じゃ押さえられナイから、土器を選びました。エヘへ。
涙と鼻水をダラダラ流しながら、ピキピキと音を立てる。ツンと突けば砕け散るホド、心に深いヒビが入った。ウナの目から光が消え、暴れるのを止める。
「さてっと。」
口から瓢箪を抜き、器にコロン。
「ねぇ。コレ、なぁんだ。」
竹筒をフリフリ。中からピシャピシャと、水の音が聞こえる。
「ど・く・け・し。」
声を合わせて、ニッコリ。
毒消し? 『耶万の夢』にも効くのか。クレ、ください。お願いします、飲ませてください。死にたくない!
「何を企んでいる。狙いは、望みは。」
厳しい顔をして、ザク。
「言います、全て申し上げます。ですから毒消しを。」
闇から出されたウナ、柵を掴んで泣き叫ぶ。
「そんなの、信じられないなぁ。」
冷たい目をしてアサが言う。




