9-7 しっかり調べなきゃ
光江で子を攫おうとした罪で、耶万社に引き渡されたウナ。捕まえたのは耶万の臣、シイ。見た者、聞いた者も揃っている。言い逃れは出来ない。
腰に巻いていた縄は、引っ張ると解けるようになっていた。証としては弱い。
けれど教わった家を目指さず、子に声を掛けて回っていた事から、攫う子を選んでいたと考えられた。
「ウゴゴ、ンゴゴゴゴ。」 ハナセ、ダシヤガレ。
縛られたまま檻に入れられ、騒ぐウナ。兎や鳥など、小さな獣を入れるモノなので身動き出来ない。
「黙れ、人攫い。」
シイは父に言われるまま、一山に逃げ込んで助かった。母は生きているが、父は耶万で。兄である己がシッカリしなければ、死んだ父に顔向け出来ない。
生き残りが集められた時、『臣になって守ろう』と決める。もう誰も死なせたくない。
ウナが声を掛けて回った子は、妹や弟と同じくらいの子。泣きながら這って逃げる姿に、幼い弟妹が重なった。
許せない! 許すワケが無い。懲らしめてヤル。
「アコさま。光江の詰め所を聞きながら向かわず、子に手を出した男を捕らえました。転んだ子は泣きながら這って逃げ、『怖かった』と。」
「仕置場の横、調べの獄へ。」
耶万には三つの獄が有る。
仕置場の横に建てられたのは、刑に処されるまで入る『待ちの獄』と、取り調べが行われる『調べの獄』。耶万の外れに立てられたのが、切り取られた罪人が入れられる、『垂れ流しの獄』。
「ンゴッ、ウゴムゴゴ。」 マテッ、ハナシヲキケ。
マズイぞ。オレは大王の使いで、耶万まで一人で来たんだ。人攫いじゃ無い。
子の腕を掴んで問い詰めたのは、逃がさず聞き出すため。攫おうとして声を掛けたんじゃ無い。どうすれば良い、どうすれば信じてもらえる。
・・・・・・調べの獄? 仕置場って事は、裁きが有るのか。
耶万の大王は気が短く、裁く前に嬲ると聞いたが。まぁ良い。社の司アコ、アレは子だ。耶万も多く死んだらしい。子に任せるなどハッ、愚かだな。
取れる。今なら耶万を取れる、搾り取れるぞ! 朝から夜まで、死ぬまで扱き使ってやる。覚えてろよ。
「と、愚かな事を考えてマス。」
心の声が聞こえる禰宜、ザク。
「大王の使いなら、札か何かを持ってるハズ。」
癒しの力を持つ祝人頭、ダイ。
「アヤシイな。」
守りの力を持つ育て、ヤヤ。
「大人は少ないけど、田畑には居る。だから詰め所を教えたのに向かわず、声を掛けて回った。」
清めの力を持つ祝女頭、リキ。
話を聞く限り、真っ黒くろ。
先読の力を持つユイが見た通りになった。闇を通れるアサが光江まで行って、子に聞いて確かめたんだ。違い無い。
大王の使いなのに証を持たされなかった。それでも使いか? 祝の力が有れば判るけど、無ければ判らないぞ。
行った先に祝が居るとは限らない。なのに証を持たせず、他の国に行かせたのか。放り込んだのか、使いを。
「儺国の大王は、耶万を攻めるキッカケを探している。とすれば、どうだろう。」
社の司、アコが皆に問う。
「エッ。でも、なら証を持って無いのも。」
「うん。はじめから狙って、持たせなかった。」
「どれくらい兵が残っているのか、調べようと。」
「子に、声を掛けて回った。」
タイヘンだ! しっかり調べなきゃ。