9-6 現行犯
雪解けの後、戦が始まった。強さ、豊かさを求めて殺し合う。
鎮の西国には十の大国があり、表では話し合いで収めようとしている。裏では? 騙し合いですよ。
一歩先を行くのは儺国、儺国に組み込まれている国の一つが琅邪。やまとを一つに纏め、民が幸せに暮らせる国にしようと考えている。
志を高く持つのは良いが、なぜ戦に走るのだろう。力では無く話し合いで決めれば、掛かる時は長くとも、流す血は少なくなるのに。
中の西国もキナ臭いが、冬を越せた人が少なく、戦どころでは無い。種籾まで食べてしまった。
鎮の西国と真中の七国に頭を下げ、搔き集めている。作付けが終わるまで動けないので、戦を仕掛けるなら夏。
真中の七国は、中の東国から引いた。
笠国、駒国、剛国、倭国。瀬国、飛国、保国。七人の大王が集まり、話し合って決めたのだ。死にたくナイから。
集めた兵が残らず死んだ。
アレだけ多く送ったのに、戻ったのは倭国の王弟一人。それも酷く怯え、闇の種を植えられたと。
『中の東国に、耶万に仕掛ければ禍が齎される。国が滅びる』と叫んで、話にナラナイ。
作付けの後、兵を送る。耶万を落とすと決まって直ぐ、メキメキと音を立てながら木になった。
黒い何かを集めながら育ったソレは、恐ろしく醜い花を咲かせる。その花が言ったのだ。『オレは止めたのに』と。
七国の大王は死ぬ。
伸びた花糸に搦め捕られ、残らず食われた。命カラガラ逃げ延びた臣により伝えられ、次の大王は知る。耶万にはバケモノが居ると。
「私は鎮の西国、儺国。津佐の水門頭ウナ。耶万の大王への言伝を、儺国の大王より預かった。」
港に着くなり光江の子を捕まえて、面会を求める。
「あのぉ、オレには分かりません。耶万に行くか、大人に聞いてください。」
光江の生き残りは子だけ。大人は耶万に言われて来た、他の地の人たち。
「で、その大人はドコに居る。」
「さぁ。あの崩れそうな家が、大人のです。」
そう言い残し、タッと逃げた。
どうなっている。光江は港を持つ、耶万に戦を仕掛けられる国。なのに何だ、ボロボロじゃないか。確か多くの人が行き交い、賑わっていると聞いたが。
耶万に敗れると、組み込まれると廃れるのか。
子しか居ない、大人はドコだ。子が居るんだ、ってオカシイ。若いのが居ないのは分かるが、年寄りも居ない。
子だけで冬を越した? 有り得ない。作付けが出来るというコトは、種籾は有る。田も畑も荒れたようだが、子だけで整えられるとは思えない。
「見ない顔だな、ドコの誰だ。何しに来た。」
耶万の臣の一人、シイ。見るからにアヤシイ男、ウナを睨みつける。
「人に尋ねるなら先ず、己から名乗れ。」
そういうコトは、放してから言いましょう。
「黙れ人攫い。今すぐ、その子を放せ。」
ほら、言わんこっちゃナイ。
腕を掴んだまま持ち上げ、ポイと放した。ヨロヨロ、ドタン。転んだ子は鼻をグスグスさせながら、這って逃げる。
「何をする!」
子に手を出し、傷つけたウナはシイに捕らえられた。
「罪を犯せば誰だろうと、耶万に送る決まりだ。」
口に布を噛まされ、思い切りギュッと結ばれる。それからキリキリ縛り上げられ、思い切り膝カックン。
「ンゴ、ウゴゴ。」 ナニッ、ハナセ。




