表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
光芒編
790/1585

9-2 春が来たらヤル気だす


望みは有る。耶万やまで殺されず、真中まなか七国ななくにに売られた者は多い。王に使いを出し、探し続けている。生きていれば話が聞ける。


たとえ取り戻せなくても、話だけは聞けるから。



攫われた人を入れる囲いは木で組まれ、獣と同じように扱われたと聞く。


食べ物が差し入れられるのは、多くて日に一度ひとたび。雨も風もしのげず、飲めるのはにごった水だけ。



やまいかかっても捨て置かれ、死ぬのは子から。娘はけがされせがれなぶられ、心から殺される。


生きる事を諦めた人は死をこいねがう。光を失った目で、遠くを見つめて。




「死んだとは限らん、望みは有る。そうだろう。」


叫ぶように、儺王なのきみ


つわものを送っても送っても、戻るのは一人。」


言いにくそうに、珂王かのきみ


「春の嵐は過ぎました。耶万へ乗り込み、明らかにしましょうぞ。」


血走った目で、対国ついのくに兵頭つわものがしら



耶万にはバケモノが居る。仕掛けたり、攻め入れば命が無い。戻った者は言う。きっと、そうなのだろう。けれど、だからと諦められない。


真中の七国は耶万の毒や、持ち込まれた病でボロボロ。それでも耶万を諦めず、戦いをいどみ続ける。しづめ西国にしくには、どうする。



耶万を手に入れ、従えるのは難しい。けれど引けない引かない、諦めない。死んだ者のためにも。



耶万から引けば、死んだ者が戻るのか? 誰一人、むくろも骨も戻らない。分かっている。死んだ者は、何のために死んだ。


ふざけるな! 受け入れられるワケ無いだろう。



いつまでも思い通りにサセナイ、耶万を潰す。それがとむらいだ。奪ういくさじゃ無い、弔いの戦だ。


負けない、必ず勝つ。勝つまで戦い続ける。引くモンか。






「愚かだ。」


死んだ者が望むのは、残された者の幸せ。敵討かたきうちでは無い。


「猫神。人のとき儺国なのくに珂国かのくにより、闇が広がりました。」


使いおにあきれる。


「またか。」



大祓おおはらえの儀が執り行えるホド、残って御出でか? 天つ国、根の国から御許しを得られても、隠の世は動かぬぞ。



にしてもオカシイ。


兵が死んだのは東国ひがしくに、西国で大きな戦は起こらなかった。海を越えて来たバケモノに食われたか、合いの子に食われたか、妖怪に食われたか。



闇はドコから出た、なぜ溢れた。大祓で消えたハズ。黄泉平坂よもつひらさかは無い。狭間はざまから漏れた? 有り得ない。



蘇葉山(そばやま)へ使いを。珂国の動きが知りたい。」


「はい。」



和山社なぎやまのやしろで行われた、狭間の守神のはかり。


矢箆木社やのきのやしろからの告げ知らせによると、犬の妖怪の闇だったと。受け継いだのは良那らなのヨシ、ただ一人。父や他の男には無かった。



矢箆木沼やのきぬまで死んだ妖怪の他にも、同じような闇を抱える妖怪は多い。ヨシのように男にだけ引き継がれていれば判るが、違っていれば難しい。



儺国は郡山こおりやまから調べた。対国は竪羅山(たてらやま)岐国きのくに岳辻たけのつじから残らず。


他も急ぎ調べ、何も見つからなんだと聞く。残るは珂国、蘇葉山のみ。



雲雀神(ひばりかみは寒さに弱い。『春が来たらヤル気だす』と、情けないコトを。そろそろ調べ終えたハズ。和山社からは何も、となれば。




「申し上げます。人の世、郡山の東。ひょうの民が住まう山のふもとで、闇が噴き出しました。」


「あの辺りには確か、国が。」


「はい、いくさが始まりました。春なので。」


・・・・・・ニャニッ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ