8-270 光の雨
「おや、スイ。育ったね。」
ニコッ。
「ヴガッ、ヲガヴァバガ。」 アコ、ナニヲシタ。
困ったな。そんな目で見ないでよ、小さい子が泣いちゃう。ココには継ぐ子しか居ないけど、いろいろ思い出しちゃうじゃないか。止めてよね。
「王や臣の代わりなど幾らでも居る。死んでください、耶万のために。」
「ヴガゲヴガ、ヲヲガザダベェェェ!」 フザケルナ、ココカラダセェェェ!
「なぜ逃げる、なぜ喚く。耶万を良くしようと、王になったのでしょう?」
「ヲァ? ギヴガァ。」 ハァ? シルカァ。
オレは悪くない。大王だ、耶万の大王だ。水手から伸し上り、ココまで辿り着いたんだ。
それなのにアコ、テメェが耶万に戻ってからオカシクなった。
継ぐ子のクセに許せねぇ。どっかの偉い祝が、大王の種を育てたダケじゃないか。ッケ! 大王に似て良かったな。
「私はね、ずっと前の王が穢した、蛇谷の祝の子ですよ。お忘れですか? 耶万が滅ぼした、小さな国です。」
「ゲヴィガギ・・・・・・。」 ヘビタニ・・・・・・。
覚えて無いな。ん、ってコトは耶万に逆らって滅んだ、小さい国かぁ。ケッケ、コレは呪いか?
「光と闇は背中合わせ。私が母から受け継いだのは呪いでは無い、光だ。さぁ王よ、身も心も耶万に捧げるのです。」
見れば判る、その姿。
肌に浮かぶ黒い蔦は、その身に宿った闇。種が芽を出し、闇を取り込みながら育ったのです。やがて花が咲き、光の実を付けるでしょう。
恐れる事はありません。民のため、国のために死ぬのが王。闇を吸えば吸うほど、豊かな実が生る。弾けて光が降り注ぎ、辺りを清めるのです。
「ヴヲォォ。」 ナニィィ。
メキメキ、メキメキメキ。ボッ! ニョロニョロ、ググゥゥ。バチバチ。
スイの体からポンポン、蔓が伸びだした。支えなんて無いのに、空へ向かって真っすぐ伸びる。
葉を広げ、耶万に流れた闇を吸い込む。キラキラ輝きながらグングン伸びるソレは、天つ国にも届きそう。
キュゥッ、ポン。ポポポン。
アチコチで大きな花が咲き、葉がワサワサ動く。勢いよく闇を取り入れ、輝きを増す。香りに吸い寄せられるように、耶万の外からも闇が集まった。
ポポン、ポン。ワッサワッサ。
耶万に滅ぼされた国だけじゃない。大貝山の統べる地からも、闇が吸われる。ドクンドクンと、幹のような茎が脈打ち、花が散る。
キュゥゥッ、プゥゥッ。メキッ、メキメキ。パンッ!
凄い勢いで膨らんだ実が弾け、耶万に光が降り注ぐ。耶万の人たち、大喜び。
全ての実が弾けると、スイだったソレはシュルシュル萎み、砂のようにサァッと崩れた。光が舞い上がり、耶万を優しく包む。
「終わったね。」
アコの肩に乗った、照が呟く。