8-269 蟻の這い出る隙も無い
助けて、誰か助けて。アタシは四姫、腰麻のアキよ。皆に求められて国守になった。腰麻のためにイロイロ、セッセと働いたじゃない。
オカ、オカシ、オ、オオ、カシ。オオオ、オカシ。
ボロッと目玉が落ち、眼筋がブチン。シッカリと味わわせるため、脳は残されている。見えなくなったが聞こえる。息が出来ない。なのに死ねない。
シ、ニタ、クナ、イ。タ、スケ、テ。
どう前向きに考えても助からない、解っている。だから出て、移ろうと。なのに出られない。このままじゃ死ぬ? アタシが、このアタシが?
死にたくない、死にたくない、死にたくない! 助けて、誰か助けて。イヤァァァァ!
キィィン。シュン、シュン、シュン。ピッカァ。
逃げ場を失った四姫アキの魂が崩壊し、大祓の儀が始まった。
大貝の土、耶万のマノ、腰麻の田鶴によって囲われ、光の柱が立つ。残骸に閉じ込められた魂を祓うため、ヤヤが守りの力を引っ込めた。
ジッタンバッタン暴れても、柱の中から出られない。ガランとした窪みから、脳がヌルンと流れ出る。ガラガラと散けた骨組みから、ゆらりユラリと闇が出た。
脆くなったモヤモヤが、パラパラと崩れてゆく。アキの魂にヒビが入り、パンと砕けた。なのに叫ぶ。
シンデタマルカ! ノロッテヤル、オボエトケェェ。
耶万の皆、ポッカァン。使わしめは怯む事なく、祓いの儀を続ける。『シブトイな』と思いながら。
「腰麻の四姫、アキ。隠の世にも、根の国へも行かせぬ。消えて無くなれ。」
耶万神による清めの儀が始まった。祓いきれずに残ったので、力技である。
嫌呂が和山社、大蛇神の御元へ急ぎ、御知らせしました。つまり天つ国、根の国からも御許し、いただいてマス。
隠の世からも支えられ、蟻の這い出る隙も無い。
「ち、力が漲る。」
耶万の大王スイ。人間、やめちゃいました。
「・・・・・・ハァ。この忙しい時に。」
「アコさま。その、当たっちゃった。」
「違うんだ、ユイ。起こると分かっていても、イラついてしまう。それが人なんだよ。」
「そう、なの?」
パチクリ。
「そうなの。だからね、私たちに出来る事をしましょうね。」
「はい、リキさま。」
悪鬼に守られながら、耶万社へ戻る。嫌呂は獄を見張り中。
「耶万には人を妖怪に変える、何かが有るのか?」
「ヴガァァ!」 シルカァァ!
ボソッと呟いたダケなのに、応えられた。言の葉では無く、叫びだったケド。
それにしても禍禍しいな。悪意の若い時くらい。悪かったからなぁ、アイツ。