8-264 皆は、どうだい
厳しい冬が去り、待ちに待った春、来る。
長かった。冷たい風に吹かれ、木や岩に打ち当たり舞う。そのまま叩きつけられ、ピキンピキン。逃げようにも逃げられず、そのまま凍った。
雪が解けて、土に飲まれる前に動いたわ。風が無いから飛べなくてね。あぁ疲れた、疲れた。日に当たって乾かして、やっと乗ったら川ポチャ。
ドロンドロンなのに沈まなくて、死ぬ気で這い出た。日を浴びた岩にピッタリくっついて、身軽になるまでジッと待ったわ。
「ハァァ、信じらんない。何よ、なんで私がコンナ。」
こんな姿、誰にも見せられない。
「私は四姫、姫なのよ。なのに、どう見ても。」
なに!
「何でも良いから食わなくちゃ。乗っ取るなら人が良いけど・・・・・・。」
イキナリ何かに掴まれて、そのまま食われた。慌てて逃げようとしたけど、ビクともしなかった。取り込まれてグチャグチャになって、飛び散った。
いや違う、燃え上がったのよ。
骨も、灰も残らない。そう思ったから思いを集めた。
空に吸い込まれる前に、木に齧りついたわ。この私が! 己で切り取ったんじゃないから、思うように動けない。それでも何とか残った。
「三つも植えたのに。」
なぜ一匹も応えない。
「死んだ、殺された、消された。」
としか考えられない。
「ユキのヤツ、また。」
昔から嫌いだった。
ユイとユズは親が同じだから、兄さんにベッタリでも良くないけど良い。でもユキは、祝の力が有るってダケでチヤホヤされて許せない!
「ブフッ、乗っ取ってヤル。」
その前に耶万に寄って、腹拵え。
「耶万って確か祝の子、居たわよねぇ。グフフ。」
どんな味がするんだろう。楽しみぃ。
「クベ。」
「引こう。」
間違い無い。アレは采に捨てた腰麻のアキ。あんな姿になっても、まだ死なないのか。サッサと消えろよ。
「フタさん、アレはイケナイ。オレたちにドウコウ出来るヤツじゃ無い。」
「そうだな、急ぎ話し合おう。集まるならココから遠い、加津が良い。」
アレは風に乗ってフラフラするダケ。己で動けない。
耶万に辿り着くまで、時が掛かるハズ。春、初めて吹く風は南寄り。北へ流されれば風見、大貝山。
ブンブン振り回されて会岐、大石、千砂、加津に飛んで来たらドウする。そうなる前に捕らえて、壺にでも閉じ込めたい。
「マズイ事になったな。」
話を聞いたミカが呟く。
「北へ流されても、そのうち戻る。」
「フワフワのままなら良いが、何かを乗っ取れば。」
フタとモトが見合い、溜息。
「その時は、オレの闇で包むよ。」
サラリとクベ。
「この地は大貝山の統べる地。御知らせするなら耶万の前に、大貝山だとオレは思う。皆は、どうだい。」
ミカに問われ、コクリと頷いた。