5-5 なぜ
エン様は望まれた。霧雲山が統べる地を、見守ってほしいと。だから、手を貸す。この地のためじゃない。
「ブラン。」
カー様の御姿は、変わらない。若く、美しいまま。優しく微笑み、民を導かれる。
「祝辺の守は皆、甘い。従える力を持つのに、使わぬ。傲慢で、愚かだ。」
私も、同じ考えです!
「いずれ、この地も?」
「見守るよ。」
遠く離れた、異国。霧雲山の統べる地を見守るのは、エン様との約束だから。
化け王の領地になれば、幸せに暮らせるのに。可哀そうだとは思うが、仕方ない。
「ブラン。ジロとは、村長か。」
「いいえ。特別な才能を持つ、狩人の長でした。春、老衰により、死亡。その孫コウにも、何かが、と。」
「・・・・・・守るなら、すべて守れば良いものを。」
化け王は代々、平和主義。中立を守るためなら、手段を選ばない。
欲深い、大王のような為政者を、ひどく軽蔑し、切り捨てる。判断を誤れば、祝辺の守であっても。
カーは理解に苦しむ。この程度の領土なら、苦も無く統べられる。
狭い地に、多くの小さな国。なぜ、統一しないのか。
中には優れた長もいる。祝という、柱も。祝辺の守が王となり、優れた者を臣下とし、治めれば良い。
人口が増えれば、戦が起こる。食べ物が足りなくなって、奪い合う。
収集の才を使えば、不可能を可能に出来る。しかし、人よ。お前たちには、才がない。祝の力では、救えない。
「アァァァァァァ。」
低く、不気味な声が響く。悪しきモノ、どす黒いモヤが叫ぶ。
狩り人に狩られた獣から、魂を奪う。奪って、奪って、釜戸山の、妖怪の墓場へ。
「使えないわね。」
魂を奪うには、唆し、操らなければ。
釜戸山の仕置場へ。罪人から・・・・・・奪えない! 奪おうとすればするほど、奪われる。
干乾びる前に、逃げた。
「アァァァァァァ。」
悪しきモノ、どす黒いモヤが叫ぶ。




