8-263 待ってるんだよ
雪が解け、陽がポカポカと暖かい。ちびっ子じゃなくても駆け回りたくなる。狩り人たちはイソイソと森に出掛け、獣を捕らえる罠を仕掛けた。
「モトさん。森でシシと熊、狩ろうよ。」
「あのな、ヨヨ。社の事なら教えられるが、山の事はサッパリだ。」
「じゃぁ、狩り人に教えてもらおう。ネッ!」
「・・・・・・この感じ。」
「シシ? 熊?」
大磯川に何か、悪いモノが入った。流され、いや溺れている。早いな。
「ヨヨ、千砂に居なさい。私は川を上がり、吹出山を見てくる。」
「ボクも行く、シシ狩る。悪いのは山、越えないよ。」
「狩りに行くんじゃ、ん。」
「悪いのは山の少し前で、川から出るんだ。それからフタさんが女の子と見張って。そっから分かんない。」
ヨヨに先見の力が? そうならフタと女の子、ミイの事か!
「見えるようになったのは、いつから。」
「うぅぅん。千砂が開かれてから、かなぁ。でもボク、モヤモヤしか分からないよ。」
見えるのは闇だけ。他の先は見えない、分からない。というコトは、闇の動きを変えられる。闇に限られるが、千砂を守る大きな力になるぞ。
「スゴイぞ、ヨヨ。直ぐ皆に知らせよう。」
「モトさん。モヤモヤ、川を出たよ。」
「エッ、分かるのかい?」
「うん、川ならね。『何となぁく』だよ。」
ウチの子、凄い! 急いで会岐に伝えよう。モヤモヤが何なのか分からないが、良いモノで無いのは確かだ。
もし腰麻のモノなら、力を得るために食らう。人でも獣でも構わず、バクバクと。
「そうか。その闇が何なのか分からないが、クベを誘って見に行くよ。」
「フタ。ミイに変わったトコロは。」
「カンが良い、いや鋭いな。心の声がドウコウでは無く、ビビッと伝わるらしい。」
クベはミカ、腰麻のユキと共に、国守アキを采に捨てに行った。モヤモヤが腰麻のなら、直ぐに判るだろう。
もしアキの闇が残っていたなら、耶万にも知らせなければ。
良那から戻った継ぐ子が、社の司に就いたと聞く。母は蛇谷の祝で、闇を光に変えられるとか。
「ミカには私から。ヨヨの話を聞く限り川を下ったモヤモヤは、フワフワ漂っているようだ。気を付けてな、フタ。」
「ありがとう、モト。」
ミイを社に預けて確かめに行こう。クベが『腰麻のだ』と言えば、耶万にも知らせる。違ったら、クゥさまに御頼みする。
腰麻の人に植えつけられた、アキの闇は三つ。
四妖がかりで片付けたが、他に残っていてもオカシクない。モトが言うんだ。モヤモヤに、アキの闇が。
「ミイ、少し出てくる。」
「はい。いつでも行けます。」
ニコッ。
「いや、会岐に・・・・・・。」
ウルウル。
「確かめたら直ぐ戻る。だから、待ってるんだよ。」
コクンと頷くミイの頬を撫で、フタが優しく微笑んだ。