8-261 扱えないクセに
何だ、何なんだコレは。夢なら覚めろ。
兄さん、言ったじゃないか。『これだけの兵で攻めれば、どんな敵も戦う気を無くす』って。
『耶万に勝ったら王にする』って言えば、オレが受けると思った?
受けたよ。王になって、兄さんを支えたかったから。
騙したの? こうなるって分かっていたから、出なかったの兄さん。そうなの、ねぇ違うよね。
これは夢、夢なんだ。夢だ夢だ、目を覚ませ。
今すぐ目を開けて、伝えるんだ。耶万には勝てない。手を引かなきゃ兵を失う、バケモノに殺されるって。
「ヴゥヲォォォォ。」 オレガワルカッタァ。
多くの人を騙しました。多くの人を攫いました。多くの人を嬲りました。多くの人を穢しました。多くの人を飢えさせました。多くの人を壊しました。多くの人を死なせました。多くの人を殺しました。多くの人を人では無く、モノとして扱いました。
「ヴガァァァ。」 ゴメンナサイ。
ごめんなさい、許してください。許されない事をしました。解っています。それでも、お願いします。許してください。
メキッ、メキメキ。メキッ。ガタガタガタ、ヴァン!
実が裂けて、花のように開いた。パッと光が飛び散り、闇に覆われた穢れた光江が、辺りの穢れごと清められる。
舞い上がった魂は、真中の七国へ戻る。他の魂は、導かれるように根の国へ。
「ねぇ。いつまでソウしてるの、倭国の人。王の弟だっけ。」
ハッ、この声。耶万の社の司。
「終わったよ。みんな死んだ、戻らない。骸も無い。戦の生き残りは捕らえて殺すか、獄に入れるんだけど帰って。七国の王に伝えるんだ。『戦なら他でヤレ、耶万を巻き込むな』解ったら頷いて。」
コク、コクコクコク。
「乗って来た舟、ソックリ残ってるから好きなの使って。水と食べ物は持って帰って良いけど、他は貰うよ。良いよね。」
・・・・・・。
「話せないなら首を動かして。言う通りにするの、しないの。どっち。」
コクコクコク。
這うように舟に戻り、ベタン。震える手で櫂を握るも、思うように進まない。そりゃそうだ、浜に打ち上げられている。
「その舟で帰るんだね、良いよ。けどイロイロ載ってるね。忘れた? 持って帰って良いのは、水と食べ物。」
ハッ、そうだった。
「こっ、ころさ、ないで。」
「殺したら伝わらないじゃナイか。シッカリしてよ。」
そう言って、闇の種を植える。
「な、にを。」
「植えたんだ。スゴイね、もう芽が出た。イケナイな、悪いコト考えたか企んだでしょう。育ったらドウなるか、見たよね。」
ニコッ。
取り出そうとすると、出血多量で死ぬ。心臓と癒着しているようなモノ。どんな名医にも摘出できない。清めと守りの力を生まれ持つ祝になら、取り除けるかも。
アコの闇より強い、光の力を持つ祝になら清められるヨ。
耶万が蛇谷を狙ったのはコイツらの所為。強い闇の力を得られれば、丸ごと片付けられると考えたんだ。
耶万の大王は愚かだよ。扱えないクセに求めるなんて。