8-256 無駄に出来ない
会岐の西、吹出山の麓にある吹出社。小ぶりな山が三つ連なっており、黄泉平坂に繋がっている。
「吹出神より御許しを得た。迷うとイケナイから、私も光江まで行く。良いね、アサ。」
「はい、マノさま。」
罪人マツを光江へ移す。
生きたまま魂を抜いてから、悪鬼さまの闇を外す。だから為損なっても遣り直せる。『イタイのはマツだけ』なんだって。
人の世の外れに有る獄は、前を通る死人に丸見え。
わぁ、賑やかだな。きっとアレだね、マツが入ってるの。アッ、悪鬼さま。モフモフだ。
「よろしくお願いします。」
マツから魂を抜き、植えられた悪鬼の闇を外す。
吹出神の使わしめ、羽葉がニコリ。アサはマノと共に獄に入り、転がっているマツを闇に入れた。
闇に沈めた事は有るが、入れたのは初めて。チョッピリ重かったようで、パチクリしてから頷いた。イケルらしい。
「羽葉さま、悪鬼さま。ありがとうございました。」
アサがペコリ。
「気を付けて。」
人に化けた羽葉に撫でられ、ニッコリ。
マツは考えた。どう前向きに考えても助からない、逃れられない。悪い事をした? それが何だ。人を攫って売り払うなど、皆やっている。
なぜオレだけが責められるんだ。やった事は認めるが、オレは悪くない。
裁きだ、認めるまでは生かされるハズ。どんな扱いを受けても、やった事しか認めなければ殺されない。死んで堪るか、生きてやる。
「どうしたの、ユイ。」
「リキさん。真中の七国から、兵が送られてきます。海神が、御力を揮われたのでしょう。とても早い。」
「エッ、それって。」
「はい。光江で裁いている時に、押し寄せます。」
「アコ!」
ユイの先読は確かだ。急に見えたのは、神が御力を揮われたから。気紛れ? 違う気がする。
「・・・・・・纏めて片付けよう。」
「片付けるって、どうやって。」
「真中の七国が言う事、求める事は一つ。耶万に過ちを認めさせ、組み込む事さ。」
「はぁ? いきなり攻めて来たのはアッチだぜ。」
「そうさ。でもね、ザク。ヤツらは認めない。耶万を組み込んで、やまとを統べる気なんだ。」
「ハッ! 七国だって纏められないクセに。」
継ぐ子のキヤが、吐き捨てるように言った。
耶万は戦好き。アチコチの国に仕掛け、攻め入った。
けれどソレは、近いトコロの話。海を越えて仕掛けたり、攻め入ったりシナイ。そんな力は無い。だから北、霧雲山を目指したのだ。大いなる力を求めて。
「戦を仕掛けるなら使いを出す。今のトコロ来て無い。ってコトは言うだけ言って、ザッと攻める気だ。」
「はい、アコさま。その通りです。」
頭を抱えながら、ユイが言い切る。
物凄い勢いで先を読む。
ユイはタエと違い、先読の力を生まれ持ったワケじゃ無い。清めの力を持つリキ、守りの力を持つヤヤに支えられて、やっと立っていられる。
割れそうな頭をガンガン使って、目を剥き泡を吹きながら、命を削って読んでいるのだ。