8-248 異議無し
フンフンと御機嫌な大蛇。使い鵟は黙って、後に続く。
プイッとされ気を揉んだが、良かったヨカッタ。愛し子さまサマだ。
津久間だって清らだが、この山には劣る。蛇神が憑くほどの子。さぞや、と思ったが凄かった。なんてコトを考えながら、スイィッ。
「集水神からの知らせ、詳しく聞こう。」
和山社にて、神議りが始まる。
驚いた。人の子から切り取った闇から、妖怪の闇が見つけ出されたのだ。しかも昔、矢箆木社から告げ知らされた闇と、ピッタリ同じだと言う。
鎮の西国、儺国の果てに広がる矢箆木沼。底なし沼とも、毒吐き沼とも呼ばれる。
広い地のアチコチから噴き出す毒は、泡の中。浮かんでは消えるソレは、多くの命を奪い続ける。
獣や人が死ぬ事は無いが、毒で死んだ魚を食らえば死ぬ。扱いに困る骸が投げ込まれるので、飢えた妖怪には暮らしやすいトカなんとか。
猫神に仕える隠の祝、ミツの骸が投げ捨てられたのも矢箆木沼だ。
「矢箆木沼の妖怪は確か、郡山の墓場に。」
呟くように、熊啄木鳥神。
「はい。闇を宿せば直ぐ、沼に引き摺り込まれます。」
ハキハキと、猫神。
保ち隠、叨は守りの力を生まれ持つ元、祝女。日乞いの生け贄として、濁った流れに飛び込まされ、溺れ死んだ。
流れ着いた矢箆木沼に力を保ったまま沈み、猫神に拾われ保ち隠となる。
叨は落ちて来た妖怪から闇を切り取り、壺に納めて月に一度、矢箆木社に持ち込む。調べが済めば戻され、持ち主の魂と共に葬られるのだ。
「犬が宿した闇と、全て合うとは。」
溜息まじりに、狗神。
「考えられるのは、呪いか。」
ボソッと、烏神。
「願いを叶えようと、生け贄に。」
続けて、狐神。
野山で生きるのは犲、人と生きるのが犬。
大好きな人と暮らしたい、役に立ちたい尽くしたい。そんな思いを踏み躙り、憎しみを抱かせるよう嬲り殺され生まれるのが、犬の妖怪。
妖怪が人と契っても、その幸せは続かない。妖怪は長生きするが、人は直ぐ死ぬ。子を残しても同じ。
人が生きている間は良いが、残された妖怪は好いた人を葬り、少しづつ狂う。
生まれるのは人とも妖怪とも違う子。顔は人でも耳は犬とか、顔は犬で体が人とかイロイロ。
稀に人の姿で生まれるが、惨たらしい事を好む。残された子は構ってもらえず、心に闇を宿すのだ。
「大蛇神、宜しいでしょうか。」
キュルンと、猫神。
「ウム。」
叨に確かめ、闇の主を調べました。その妖怪は人の姿をしていたので、人の世へ出ます。狩り人として認められ、一目惚れした娘と契りました。
生まれた子も人の姿だったのですが、牙が。妖怪だと知られ、耐えられなかったのでしょう。逃げるように矢箆木沼へ。
妖怪の墓場に葬られたのです。良那のヨシは、残された子の先祖でしょう。闇がピタリと合ったのは、男の血筋だったから。
他には考えられません。
「闇は持ち出された物では無かった。引き続き、狭間の守神に任せようと思う。皆の考えは。」
ワイワイ、ガヤガヤ。
「仰せのままに。」
暫くして、満場一致で可決された。