8-247 出来した!
「ワン! ワワン。」 マル! ハヤクハヤク。
雪の上を走るの、とっても楽しい。ズボッて、ゴフッてするけど、ワクワクするんだ。それにね、ボク大きくなったヨ。だから埋もれないし、声もシッカリ出る。
「アッ。」
ポスッ。ノソッ、フルフル。
「フゥ。・・・・・・フフッ、見て。」
雪の上で転んだマル。沈んだ跡を指差し、ニッコリ。
「私も!」
ポスッ。
マルとタエ、キャッキャウフフと大はしゃぎ。
「つぅかまえ、たっ。」
駆け寄ったマルコ。マルに抱きしめられ、尾をフリフリ。
「クゥン。」 ツカマッチャッタ。
とっても幸せそう。
久しぶりに良村に戻った大蛇。愛し子マルを見つめながら、心の洗濯中。イロイロあったからネ。
「大蛇神。急ぎ、社へ御戻りください。」
イヤだ。プイッ!
「おりょち。」
マルに抱きつかれ、デレッ。
「はやく、かえてきてネ。」
ニコッ。
「・・・・・・ウム。そうしよう。」
使い鵟、ホッ。
「何が起きた。」
「はい。『良那のヨシから切り取った闇に、妖怪の物が混じっていた』と集水社より、告げ知らせが御座いました。」
「そうか。」
『良那から妖怪が出た』なんて話、聞いた事が無い。
良那は向山の南にある大国。とても豊かなので仕掛けられる事が多く、戦い慣れている。
そのような地で妖怪の闇を、それも子が宿していたのか?
なぜだ。有り得るとすれば先祖。生まれ持ったか乗っ取られたか、闇の種が時を越え宿ったと考えられる。
マズイ。だとすれば、この地にも・・・・・・。それは無い。そんな人が居れば、直ぐに気付くハズ。
良那と良村。いや、この辺りとの違いは何だ。
同じ中の東国、統べる神が違うだけ。津久間神と山守神の違い。使わしめが蛇か狐か、統べる地が低いか高いか。祝辺か?
「この地は清らですね。体が軽くなりました。」
木の枝ポーン広場から大蛇社へ向かう道中、軽やかに飛ぶ使い鵟が歌うように言った。
「今、なんと。」
ギギギと首を動かし、大蛇が問う。
「はい。『体が軽くなりました』と。」
「その前!」
「ハイッ。『この地は清らですね』と、申し上げました。」
舞い降り、平伏す。
「出来した!」
・・・・・・キョトン。
気付かなんだ。マルは鴫山の祝に妬み嫉まれ、陥れられた祝女の孫。強い守りの力を受け継いで居る。加えて、清めの力を。
鴫山から広がっていたのか。マルが生まれて直ぐ、心惹かれたのは当たり前。思い違いでは無かった。マルの幸せが良村の、この地の幸せに繋がるのだ。