8-246 困ったね
恐ろしい事になった。大貝山の統べる地、それも耶万から闇が溢れた。耶万神が直ぐ、清めなさったが。
「土。闇喰らいの剣から、何か感じるか。」
「いいえ。糸にも変わり有りません。」
グルグル巻きにして埋める前、神倉に一本、地蜘蛛の詰所にも一本コッソリ繋いだ。糸が解けたり萎んだりすれば、ビビッと直ぐに分かる。
「剣には変わり有りません。けれどアチコチから、耶万に向かって闇が。」
「集まって。いや、吸い寄せられたか。」
采、悦、大野、光江、安。どれも耶万に滅ぼされ、組み込まれた国。
重罪を犯し、処罰されたヤツの国。足りなくなって送り込まれ、人が少なくなった国。送られた食べ物を横流しして、多くの人を飢えさせた国。
生き残りは売れ残り。親と生き別れ、もしくは死に別れ、一人で生きてゆけない幼子。痩せこけた子、年寄り。
若い人が居らず、田も畑もボロボロ。耕そうにも力が出ない。食べる物が無いから。水を汲む力も無く、這い出て雪を口にする。家に戻っても薪が無い。
雨風を凌げるだけマシだが、とても寒い。
「死んだ人が根の国へ行かず、留まって。」
「はい。妖怪になっても生きられず、朽ち果てたのでしょう。」
何も考えられず、ピクリとも動けず、ドロドロに腐って闇に飲まれた。解らない。なぜ人は傷つけ、奪うのだろう。なぜ分け合わない、分け与えない。
耶万から届けられた食べ物を分け合えば、生きて春を迎えられた。人として生きられたのに、なぜ。
「戦に敗れ滅んでも、耶万に組み込まれ残りました。五つの他は立て直し、ちゃんと生きています。」
「土、私はね・・・・・・。大貝山に人が居なくて良かったと、心の底から思うよ。」
『そんなコトを』なんて言えません。私も同じ考えです。
「困ったね。」
「はい。お許しいただければ、直ぐに。」
「イケナイよ、マノ。」
ニコッ。
耶万に闇が集まっている。渦巻く前に清めているが、こうも続くと考えてしまう。王の首を挿げ替えようと。フフッ、マノが知ったら怒るかな?
今のところ、神倉は清らなまま守られている。この社から溢れない限り、届く事は無い。人の世の闇なら。
「水引神の使わしめは蛇、だったね。」
「はい。隠の蛇、美水さま。水引の谷からは御出にならないと昔、蛇の集いで聞きました。」
ニコニコ。
狭間の守神は闇を切り取り、調べた末を持ち寄って議られるとか。確か望日に、和山社で。
ん? アッ、分かった。闇を切り取って壺に御入れ遊ばしたのは、いつか御調べ願おうと。
でもなぁ。水引の谷が在るのは、津久間が統べる地。ココは大貝山の統べる地。どちらも閉ざされてる。困ったな、伺えないよ。どうしよう。
「ありがとう、マノ。」
ナンだカンだ有りますが、耶万は今日も平和です。