8-244 さようなら
大祓の儀は二段階。三人の祝、もしくは三神獣が祓いの儀を。続けて三柱が、清めの儀を執り行う。
国つ神で在らせられれば良い、という事は無い。人の世なら、人の世の神。隠の世なら、隠の世の神と定められている。
狭間の守神は人の世の神。けれど、他の国つ神とは少し異なる。よって『大祓に』と、御声が掛かる事は無い。
この度の事で、光を飲み込むホド強い闇の力を以てしても、清められない闇が有ると判った。一粒だが残ったのだ。大祓の儀が執り行われるだろう。
アコの事が気掛かりで、御許しを得て控えていた岸多神の使わしめ、永良部は焦った。
このままではアコが死んでしまう。幾ら強い力を生まれ持っても、続けて使えば力尽きると。
集山に近いのは良那、次に近いのは岸多。
良那神も岸多神も、狭間の守神では無い。御呼びするなら水引神、誘神だ。
スオさまはアコから離れないハズ。実さまは子を守るため、戦い続けた狐さまだ。きっと守ってくださる。
永良部は大急ぎで、知らせに泳いだ。
集水川を下り、浜木綿の川へ。グイッと上がり、水引の谷を目指す。
白水湖を潜り、水引社へ。神に御知らせしてから、ひたすら泳いで迷いの森へ。誘神に御知らせし、気を失う。
はい、そうです。迷いの森は根の国に繋いでいません。永良部が御留守番してマス。寝てるけどネ。
「始まった。」
隠の世。和山社にて、大蛇神。
「光を飲み込むほど強い、闇の力でも残ったとは。」
梟神、ホウと溜息。
「狭間の守神なら、きっと。」
祈るように、鵟神。
開いている地に御坐す狭間の守神は、人の世の神を避けて御出でだ。キッカケはイロイロ。中には一九社でのアレコレを御聞き遊ばし、見限られた神も。
中の西国は力技で何とか。鎮の西国、真中の七国は難しかろう。
隠の世を幾年、閉ざせば良いのやら。中の東国だけ開いて、割符を持つ妖怪のみ受け入れ、直ぐに閉ざすか。
「他で同じ事が起これば、人の世に。」
亀神が、ポツリ。
「収められるとは・・・・・・。」
遠い目で、猫神。
大社でイジワルなさった神の多くが、御隠れ遊ばした。代替わりなさっても、似たような事が起こるだろう。使わしめ、社の皆が同じなら。
守りの地が滅びれば、そのまま。人に望まれれば、新たな神が現れ出なさる。空っぽの社に迎えられ、光を見出せるだろうか。
「ギャァァァァァァァ。」
痛い苦しい助けて誰か、誰でもイイから助けて!
「な、んで。」
親に捨てられた。早稲に裏切られた。良那に戻れない。
「わ、から、ない。」
ココどこだろう。あれ? えっと、いろいろ聞いてきた・・・・・・。
神様だったんだ。光ってるもん、そうだよね。ごめんなさい。何でオレ、生まれたんだろう。
思い通りにならなくて、暴れて壊して捨てられて。
消されるよね。生まれ変わるとか、無いよね。言い残した事も、思い残す事もアリマセン。さようなら。いつまでもずっと、さようなら。さようなら。