8-243 やる気マンマン
遣り過ぎかとも思ったが、集山を閉ざして良かった。ここまで禍禍しい闇が、人の子から溢れるとは。
・・・・・・マズイ。隠の世が閉ざされている今、人の世から溢れれば、根の国へ流れてしまう。
「集水神! 御気を確かに。」
「水引神? 社を空けてはイケナイ。今すぐ、御戻りください。」
「御案じ召されるな。根の国に繋いだので、シッカリしています。」
「な、にが。」
水引の谷は断崖絶壁。多くの川が流れ込み、水の勢いが強く速い。
明るい昼でも難しいのに夜、漕いで出るのは、命知らずの荒くれ者。望んで根の国へ行くのだから、繋いでも障り無い。だから夜、少しなら許される。
「さぁ、共に。」
考える事を放棄なさった集水神。気を引き締めて、集山の御力を注がれる。
一柱ではギリギリでも、二柱ならバッチリ。膨張を続ける闇が、大爆発しても耐えられる。
ドッカァン!
弾けた瞬間、禍禍しい闇の渦が光の粒に変わった。キラキラ輝きながら、ふわりフワリと舞い降りる。
「ここまで深い闇を、人の子が抱えていたのか。」
湖上を守る爽。
「信じられない。」
湖面を守る美水。
光にも闇にも強い。そんな二妖が驚くほど、ヨシの闇は深かった。
「あれ、ココどこ。オレ死んだ、よな。」
「そうだ。良那のヨシ、言い残した事は有るか。」
「誰だテメェ。」
ココは集山。目の前に御坐すは集水神、御山の上には水引神。爽と美水はヨシの欠片を押さえている。
スオと実はアコを守るため、妖術で隠した。
清めきれずに残った一粒に、魂が宿っていた。コレを残したまま開けば、人の世に禍を齎す。
アコが幾度か闇を植えたが、同じ事の繰り返し。祝の力では清められないと判った。
「ヨシよ、思い残す事は。」
「はぁ?」
言い残したい事も、思い残す事も無い。ならナゼ、消えて無くならないのだ。
「お待たせしました。木洩、集山を。」
誘神。迷いの森に御坐す、狭間の守神で在らせられる。使わしめ木洩は、迷いの森に集まった思いから生まれた妖怪。いろいろ、オソロシク強い。
「はい。」
エッ! あぁ、そうか。迷いの森も水引の谷も夜、漕いで出るのは・・・・・・。
「三柱、揃いました。」
「では、はじめましょう。」
誘神、水引神。やる気マンマン。
「お願いします。」
集水神、ニッコリ。
スオはアコを連れ、集水社へ。