8-242 妖花
血管を這うように、無数の芽が伸びる。
行き場を失った血液が口、鼻、耳、目からも流れ出す。それでも足りず、ブチブチ音を立てながら浮腫み、パンパンに張り詰め、はち切れそう。
パンッ!
皮膚が裂け、噴き出した。芽を出し、葉がポンポン開く。
月の光に照らされて、妖しいほど美しい。ヨシから養分を吸い上げ、勢い良く生長。薄紅の花が咲き、芳香を放つ。
サワサワサワ。
集山は閉ざされ、清められた。吸収する闇が無い。香りに釣られて集まるハズの生き物が、全く見当たらない。近づかないのだ。
咲き乱れていた花がパッと散り、花弁が湖上を舞う。湖面に触れると忽ち、青い炎に包まれた。幻想的だが、ヨシは異様な姿に。
メキッ、メキメキ。
闇の調達に失敗したソレは、種子を残す事を断念。骨まで融かし、シワシワになるまで養分を奪う。アッと言う間にプックリ、大きな実を付けた。
ブゥゥゥ、メリッ。
ヨシが生まれてから死ぬまでに蓄えられた闇が、ギュッと凝縮される。外部からの調達には失敗したが、中中のモノだ。
「アコ、アコ。シッカリしろ、アコ。」
ペシペシペシ。
・・・・・・あれ? 大きな狐だなぁ。白いのと黄色いの。白いのは赤い目だ。スオさまと同じだね。
「谷から離れよう。私が包むから、スオさまはアコを。」
「はい。」
ポポンと狐火が灯り、アコを抱えたスオごと囲む。後ろ足で立ち上がった実が、前足をグッと上げる。一つになった狐火がグンと浮き、ビュッと風上へ。
「何の此れしき。」
実の黒い目が、ギラリと光る。
早稲社に正式採用され、穏健派に転向した実。派遣や契約で食いつないでいた頃は、バリバリの武闘派。勇猛で鳴らした将兵だった。
戦いとは何か、生きるとは何か。頭ではなく、体で覚えている。実が早稲を選んだのではなく、早稲に選ばれたのだ。他の狐には務まらない。
「そろそろか。」
音も無く飛び上がり、風に乗った。
「実さま。」
ホッとした顔で、スオ。
「お待たせしました。」
アコはスオに抱き上げられたまま、ジッと見つめている。ヨシだった塊はドクン、ドクンと脈打って、物物しい。
「そろそろ弾けます。御目を閉じるか、守りを強めるかして、しっかり備えてください。」
アコの声が、頭の中に響く。