8-241 急成長
良那へは、社を通して伝えられた。ヨシの父は黙って頷き、母は涙を流す。育て方が悪かったのでは無い。生まれ持ったモノが、悪かったダケ。
トシの傷は深く、眠りが浅い。冷たく白い物を見ると、怯えて動けなくなる。はじめは温かい粥でも怖がって、一口も食べられなかった。
子はヨシだけでは無い。トシのためにも、強くならなければ。二人は見合い、頭を下げる。『お願いします』と言って。
「ダゼェェ! ダジヤガレェェ。」
闇に魂を乗っ取られ、ガンガン暴れる。
「狐に言われたく無いでしょうが、獣ですね。」
ダラダタ涎を垂らし、四つん這いになっている。
「急がなければ。」
妖怪になってしまう。
今宵は満月。夜の生き物が力を増し、美しく輝いている。
タップリお昼寝した、実の目がキラリ。コンと一声。ヨシを捕らえたまま、フワリと浮かんだ。そのままピュゥっと、集山へ向かう。
実は元、野狐。義理堅く、妖術に秀でている。人の子が暴れても、痛くも痒くもない。
ヨシは良那からの預かりモノだが、和山社からの仰せである。従います。早稲神の御為、皆の幸せを守るため。
「ホォ。これは凄い。」
集水湖の真中に、厚い氷が。
「実さま。あの上へ、お願いします。」
爽に言われ、氷の上にヨシを下ろす。暴れないように、妖術で縛って。
アコが着いたのは少し前。氷から離れた所で、プカプカ浮いている。スオの背に掛けて。
「迷うな、アコ。アレは禍の種。ヨシを救うには、清めるより他ない。」
「はい、スオさま。」
早稲に預けられて変わったんじゃない。良那に居た時から、どす黒い闇を宿していた。間違いなく、同じ闇だ。
オジさんオバさん、辛そうだったな。トシだって、まだ外に出られない。気の毒に。
「これより、魂を奪われたヨシに、闇の種を植えつけます。」
根を張り、蔓を伸ばし、花を咲かせ実を付ける。熟れて弾ける時、闇が光に変わるんだ。
何も怖くない。母さんから受け継いだ、蛇谷の闇だ。全てを清め、慈しむ闇だ。そうでしょ、照。
「さぁ、アコ。」
「うん。」
一人じゃない、照が憑いている。死ぬまで、ずっと。
「実さま。」
「解った。」
ヨシを縛っていた術を解き、スッと離れる。
「ナニヲジダ!」
胸に冷たい何かが、グッと押し込まれた。直ぐにモゾモゾ動いて。
「キモジワルイ。」
体の中で、何かが這っている。
「グルジイ。」
ボコボコする。
「ナニガ。」
どうなっている。体が動かない、何も見えない。力が入らない、目が眩む。