8-240 なぁんだ
エッ! 早稲から集山。それも集水谷まで、人の子を?
いえ、夜なら何とか。人に見られるとイロイロ。はい、どう考えても大騒ぎ。試す? お止めください。
「一つ、宜しいでしょうか。」
早稲社を通して、和山社と通信中。
「力及ばぬ、運べぬと。」
「いえ、運びます。」
キリッ。
集水谷は険しく、深い。四つ足の獣すら怖がり避ける。鳥にとっては、夢のような地。つまり、足を踏み立てる所が無い。
幾ら祝の子でも、力を揮えるとは。
足を滑らせば、アッと言う間に水底へ。
集水神の御力で、凍らせるのですか? 人の子が飛び跳ねても、割れない氷を張れるのですか。
悪しい考えしか持たぬヨシは清めなければ、きっと禍を齎します。ですがアコは。アコを失えば、多くの命が奪われるでしょう。
「ウム。」
実の言う通り。足場の悪い場所で力を振るえば、水底へ真っ逆さま。
「大蛇神。集水神は、水神でも在らせられます。集水湖ごと凍らせずとも、一つに絞り支えれば耐え得るのでは。」
「そうなのか。」
「そうですね。絞れば、大熊が跳ねても。」
サラリと集水神。
話し合いの末、決まった。早稲から実がヨシを連れ、良那からスオがアコを連れ、集水谷へ。
水引社からは美水、集水社からは爽。狭間を守る神の使わしめが、力を合わせて支える。
万が一に備え、集山を閉ざす。ヨシを逃がさず清めるために。闇が溢れても、収められるように。
「カツ。ヨシの事で話がある、ウチに来ておくれ。」
「そうか。行って来るよセイ、ユユ。カナ、戻るまで頼む。」
「ワン。」 オマカセクダサイ。
社の司に声を掛けられ長のヒト、大臣のヌエ、狩頭カツが、シギの家に集まった。
「休んでいたのに、すまない。急ぎ、伝える事があってね。」
「シギ。もしかしてヨシに、悪いのが憑いたのかい。」
カツが問う。
「獣では無く、闇にね。」
弱弱しく笑う。
来た時からオカシイと思ったんだ。あの歪みっぷり、タツより酷い。似てるんだよ、あの二人。考えが幼すぎる。オレが言うのもナンだけど、ありゃマズイぜ。
「で、神の御怒りに触れたと。」
ヒトがサラリと、コワイ事を。
「いや、そこまでは。ただ、清める事になった。」
シギ、大慌て。
「清める? 殺さないのか。」
ヌエが、更にコワイ事を。
「オイオイ。殺すに決まってるじゃないか。」
明るい声で、カツが言い切った。
「闇の力を持つ祝が、ヨシを清めます。」
ポカンとする実の隣で、ニッコリ。
「シギにも凄い力、有るのかい。」
兄弟の目が、輝いています。
「アリマセン。」
分かりやすく、ガッカリされました。