8-239 そうなの?
耶万の継ぐ子、アコ。死んだ蛇谷の祝、煇の子。憑き蛇、照が認めた闇使い。良那で多くを学び浅木、岸多からも認められたと聞く。
「良那に戻すか。」
ポツリと、馬神。
「集山へ飛ばそう。」
ハッキリと、鵟神。
アコには光を飲み込むホド強い、闇の力が有る。けれど子だ。
己が植えつけた闇で、人が光の粒に。それを見て心を保てるのか。もし誰かに見られれば恐れられ、傷つくのでは。
集山なら。集水谷なら、誰にも見られない。『耶万に戻る前に一度、試しに』と伝えれば、聞き入れるだろう。
「大蛇神。早稲に託された良那の子は、人の子です。」
呻るように、狗神。
「集山へ飛ばす、となると。」
鼠神、キョトキョト。
「人の体では、とてもとても。」
歌うように、烏神。
「耶万に戻す前に一度、試み試させる。闇の力は強く、思い込みで恐れる者が多い。」
人は弱い。強い力に憧れを抱きながら、それを遠ざけようとする。マルには二つ、清めと守りの力が有ったから耐えられた。しかしアコに有るのは、闇の力だけ。
生き物に闇を植え付け、魂に根を張らせる。蔦が這うように伸び、闇の花を咲かせる。萎れ実を付け、弾けるのだ。
闇が深ければ深いほど、勢い良く飛び散る。叫びと共に届けられる血肉に、どれだけの人が耐えられるだろう。一人、二人。いや、きっと誰も耐えられない。
「耶万から溢れた闇は清められたが、新たな闇が揺らぎ始めた。」
集い座した神神、ギョギョッ。
「アレを消せるのは、我の愛し子マル。蛇谷の祝の子、アコ。耶万は大貝山の統べる地。よって、アコに賭ける。」
サラッと『ウチの子、凄いでしょ』と自慢してから、本題に入りなさったヨ。
確かに、マルは凄い。近づいたダケで、根の国の闇を清めてしまう。だから使い隠は皆、大実社に寄ってから根の国へ行く。
隠の世。良山は小さいが、清らな地。近くに妖怪の墓場があり、住隠が代わり合って保っている。
治めの隠も使い隠も居ないが、大蛇社の御膝元。悪さするのは残らず、サクッと清められる。
大実山から人が消え、大実神は・・・・・・。そんな時、移り住んだのが良村の人たち。マルが心を込めて、石積みの社を作った。それが大蛇社。
良山は大蛇神と大実神、二柱の神を祀ることに。
良村の人は大蛇神を『オロチ様』と呼び、崇め奉る。
良山にあるのは良村だけ。良村の子で、祝の力を持つのはマルだけ。よって人の世と、隠の世を繋ぐ道の守りを、大蛇社から任された。
出入りを大実社に限り定め、人の世は大実神。隠の世はオミが受け持つ。前もって申し入れておけば、スンナリ進む。隠さん、大喜び。
「では、どのようにして。」
クルッと一回りされてから、梟神。
「早稲神の使わしめ、実は狐。人の子一人くらい、何とても。」
神神が狐神を見つめなさり・・・・・・。パチクリ。
「夜なら、運べるかと。」
尾を抱かれ、呟くように狐神。