8-238 清めても、消えぬ闇
人の世と隠の世の狭間には、濃く深い闇が溜まりやすい。渦巻く闇に引き寄せられ、多くの妖怪が生まれた。
それを重く見た隠の世は急ぎ議り、大社へ使いを出される。『生き物の命を奪い続けた禍津日神に、狭間を守らせては』と。
言うまでも無く、お願いでは無い。
人の世と隠の世は表と裏。いつでも好きな時に、ブスリと出来る。何をしても、どんな事が有っても隠は隠。その気になれば・・・・・・、何だって。
闇が渦巻く狭間の中で、生き物が立ち入れない。
谷底や水底、火口の中。山そのものが崇められ、強い力を秘めている。その全てを満たすのが、狭間の守神で在らせられる。
八百万の神の国、やまと。けれど守神は、百柱ほど。
人の世の果て、生き物が暮らせない地に御坐す神。その一柱が集水神。治めの地は、集山のみ。
「早稲の団子は、いつ食べても美味しい。」
パクパク、モグモグ。
「それは何より。」
サシコミ、治まったのですね。
集山と良那は、決して近くない。離れている。浜木綿の川を下り、集水川へ。流れに逆らって漕ぎ、やっと辿り着く。
集山の真中、集水谷の底。狩り人も近寄らぬ。
使いも出さず、早稲まで何を。守神で、山と水の神。使わしめ爽に、先を見る力は無い。
「良那のヨシ。アレはね、人の手に余る。」
「眠っている間に清めるのですが、日に日に。」
「隠の世が開いていれば、奥津城に。けれど閉ざされ、難しい。」
「それで、御自ら?」
・・・・・・ニコッ。
違う。とすれば、エッ!
「その通り。清めても清めても、消えないのです。」
「ヨシが集山に居たのは。」
「日が傾いてから、暮れるまで。」
そんな短い間に根を張ったのか。集山の端から、人の世の果て。狭間まで届く闇を。
「その話、詳しく。」
「和山社へ、御伝えします。」
嫌呂と悪鬼、モフンと参上。
何かイヤな感じ、したんだよね。で、辿ったら早稲。オカシイんだ。ちゃんと清めてるのに消えない。だからコッソリ、見張ってたんだヨ。
逃げ込んだんじゃナイってコトは、直ぐに分かった。だってココ、獄だもん。早稲には、閉じ込められる家が有る。だから、森の中には隠さない。
一山に真っ青な顔をして、妖狐が飛び込んできた。許し札を掲げて。サッと輿に乗りビュンと、和山社へ。
「急ぎ、参りました。」
「大蛇神に、御目通りを。」
人の子が、祝の力を持たぬ子が闇を纏った。国つ神が幾ら清めても、消えぬ闇。守神が狭間を離れ、切るような闇を、人の子が?
祝、清めの力が有れば。
早稲の辺りだと、谷西か。行けなくは無いが、人には遠い。いや止そう。二柱が力を揮っても、清めきれない闇だ。マルのように、強い力を生まれ持たなければ。
・・・・・・アコ。蛇谷の祝なら、闇の力で。