8-237 狐を化かすなど
ハハッ、解ったぜ。オレは王になるためにココまで来たんだ。厳しい早稲で鍛えりゃ、強くなれる。生温い良那に居たんじゃ、腐っちまう。
言ってたじゃないか。『腐ってる』って、早稲の偉い人が。良く来るヤツらも『腐ってんだろう』ってさ。
「危ないアブナイ。」
手遅れになるトコだったぜ。役に立たないと思ってたけどトシ、褒めてやる。オレが良那から助け出されたのは、トシが死にかけたから。
「グフッ。グフフ、グフフフフ。」
ヨシの気持ちの悪い笑い声が、洞の中にガンガン響く。見張りの犬が立ち上がり、後退るホド。
「親の言い付けを破るヤツに、なれるワケが無い。」
愚かなヤツに、オレの凄さは分かんねぇ。
「弟を殺しかけたヤツが、偉そうに何を言う。」
テメェが愚かだから、分かんねぇんだよ。
「言の葉が通じないとは。」
オレサマの凄さが分からねぇヤツは、サッサと死ね。
「構ってもらえず、狂ったか。」
オカシイのはテメェだ。
ブツクサぶつくさ、何を言ってんだコイツ。毒キノコとか変なの、持ち込んだか。目がオカシイ。いや待てよ、この感じ。タツと同じだ。
マズイな。このままじゃ早稲にも良那にも、良くない事が起きる。死なないように鍛えるツモリだったけど、急ぐか。
「クゥン?」 サネサマ?
こんな所に、早稲神の使わしめ。うん、おかしい。何を・・・・・・。誰かと、話してるのかな。
ドコにでも居るワンコだから、オレには見えない聞こえない。けど何となく、そんな気がする。
「爽さま。禍の種に、何か御用で?」
「これは実さま。お久しぶりです。」
集水社は津久間の地、早稲は大貝山の地。どちらも閉ざされ、行き来できるのは人の世の生き物。統べる神、治める神に許された者に限られる。
それダケでは無い。村から離れた森の中とはいえ、ココは早稲。御籠りだが、御坐す。
「幾ら狭間の守神でも、許し無く。それも、姿を変えてまで。」
「おや、見破られましたか。」
カッカッカ。
御声で判りました。狐を化かすなど、千年早う御座います。キリリ。
「集水神。狭間の守神は、社から出られないのでは。」
ジト目で、早稲神。
「そうなの?」
「では、大社での」
「イタタッ。急にサシコミが。」
はい、嘘です。『癪』とか『差し込み』を理由にするなら、顳顬では無く、胸か腹を抑えましょう。
「・・・・・・社で御休みください。」
イロイロすっ飛ばし、ニコリ。
「ありがとう。」
早稲神に促され、集水神。とっても嬉しそう。