8-236 春よ来い
耶万社の継ぐ子たちは生き残るため、大倉と大稲に分かれる。
大倉に逃げた子を纏めたのは、継ぐ子ザク。支えたのはリキ。大稲に逃げた子を纏めたのはダイ、支えたのはヤヤ。
大倉と大稲は離れているが、結んでいるので話し合えた。生き残った継ぐ子には、祝の力が有ったから。無ければ戦場に放り込まれ、死んでいた。
「良かったね、アコ。」
「ありがとう、ザク。」
「ねぇ、私たちにも見える?」
「リキ、蛇がコワイって。」
「アコの蛇なら、ちっとも怖くないヨ。」
キャッキャ、うふふ。
アコを含め五人とも、祝の力を出せなかった。いや、父母が隠したのだ。
ザクには心の声が聞こえ、伝える力。リキには清め、ダイには癒し、ヤヤには守りの力。目覚めたのは、大祓の後。
アコの力が目覚めたのは、耶万の外で死にかけた時。ザクたちの力も強いが、アコほど強くない。闇の力とは、そういうモノ。
恐れられる事が多いが、アコには照が憑いている。ザクたちも居る。闇に溺れる事も、乗っ取られる事も無い。
「早く春、来ないかな。」
「ダイ、寒がりだモンね。」
「ヤヤだって。」
春になったら耶万に戻る。
アコは社の司、ザクは禰宜。ダイは祝人頭、リキは祝女頭、ヤヤは育て。他の子は祝人、祝女として支える。
大王や大臣、臣。巫や覡の好きにさせない。社が国を見張る。歪んでいるコトを受け入れて、争いのない国にするんだ。
釜戸山と同じようには、出来ないだろうな。けど良那、浅木、岸多のようには出来る。『見た者、聞いた者、証』をキッチリ調べて、懲らしめるんだ。
犯した罪、その行いによって、受ける罰を変える。決して逃がさない、繰り返させない。
オレは水手から王に、耶万の大王になったんだ。偉いんだぞ。なのにオカシイ、思い通りにならない。
「スイ。シッカリしろ、スイ。」
ユサユサ、ユサユサ。
「なぁロロ。コイツに何か、乗り移ったのかな。」
「怖いコト言うなよ、キキ。」
どこに有る、どこに隠した。アレはオレのだ、オレの剣だ。王に差し出された宝だ。なのにオカシイどこだ、持って来い。
「耶万神。あの男、そろそろ。」
「イケナイよ、マノ。人に任せよう。」
溢れた闇は清められ、ピッカピカ。なのにスイの周りにだけ、闇がウゴウゴしている。とても気持ち悪い。
「それにね、春になれば戻る。」
「はい。あの子たち、大きくなったでしょうね。」
たくさん食べてグッスリ眠って、しっかり学んで帰ってくる。楽しみだな。
「雪が解けたら手始めに、耶万を肥やそうと思う。」
御目をキラキラ輝かせ、耶万神。
「それは良い。きっと皆、喜びます。」
使わしめマノ、ニッコニコ。